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第65話
ジークが苦笑した。
「いいじゃねぇか。お前さんには失敗をフォローしてくれる兄貴がいるんだから。本来なら殺して止めるところを、あいつはわざわざ自分が殺される方を選んだんだぜ? そこまでしてくれた兄貴の思いやり、無駄にすんなよ」
「…………」
「じゃ、またな」
軽く手を掲げ、ジークは立ち去っていった。
――『兄貴の思いやり』か……。
また胸がズキンと痛んだ。
兄・フレインの思いやりなんて、今更言われなくてもわかっている。人間だった頃からずっと優しくて、歳の離れた自分を可愛がってくれた。今でももったいないくらい愛情を注いでくれるし、何かあった時は必ず助けてくれる。
だが、それだけに時折申し訳なく思うこともあった。兄上はこんなに俺を愛してくれているのに、俺は何もお返しできていない……。
そんなことを悶々と考えながら、アクセルは自宅に戻った。
血に汚れた服を無造作に脱ぎ捨て、浴室で全身の汚れを落とす。流した水に返り血が溶け、赤っぽい液体となって排水溝に消えていった。
それを見たら、また罪悪感がこみ上げてきた。
深々と息を吐き、アクセルは浴室を出た。
汚れた服を洗濯に出し、平服に着替える。黒を基調にしたシンプルな衣装で、作業しやすいよう余計な装飾はほとんどない。その代わり、胸や脇にたくさんポケットがついていた。もとよりおしゃれにもあまり興味がなく、こういった機能的な服装の方が好みなのだ。
夕方近くになって、もう一度オーディンの館に行ってみた。そこで係の男に兄の状態を聞いてみたら、驚きの台詞が返ってきた。
「フレイン様なら、三十分前ほどに目覚められましたよ」
「えっ、そうなのか? どこに行ったかわかるか?」
「さあ……『ご苦労様』と仰ったきり、ふらっとどこかへ行かれてしまったので」
「そうか……ありがとう」
仕方なく館を後にする。
――困ったな……。
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