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第66話

 兄は一体どこへ行ったんだろう。  ヴァルハラは意外と広いから、集合場所を決めておかない限り目的の人物にはなかなか会えなくなる。行き違いになるくらいなら、館の前で待機しておけばよかったかなと後悔した。  一刻も早く会いたかったのに……。  世界樹・ユグドラシルの前、鍛錬場、武器の手入れ市、図書館にも顔を出してみたけれど、兄の姿はなかった。  どうしよう。兄の家まで行ってみようか。ランキング五〇位以内だったら敷地内に足を踏み入れてもギリギリ怒られないはずだ。このまま歩き回っても、兄は見つかりそうにないし……。  そんなことを考えていたら、図書館前である人物に声をかけられた。 「おや。こんなところでお会いできるなんて僥倖ですね」 「……! ユーベル様」  ランキング四位の戦士・ユーベルだ。  今日は普段着だったが、随分と華美でおしゃれな格好をしている。白い革靴と白い手袋以外は、全身これ黒ずくめ。差し色の金が袖や裾を縁取っており、ベルトにも凝った留め金が使われている。青い宝石のネックレスが首元で煌めいていた。  ――なんというか……すごいな……。  同じ黒ベースの服でも、自分とはまるで違う。決してけばけばしいわけではなく、本当の「着こなし」とはどういうものか、わかっているようなファッションだった。  宴の時もチラッと思ったが、このユーベルという戦士、人間だった頃は相当育ちのいい人だったんじゃないだろうか。それこそ上流階級の貴族出身とか……。 「ふーむ……これはまた、随分とシンプルな装いですねぇ」  ユーベルが顎に手を当て、上から下まで全身を眺めてきた。 「機能性重視ということでしょうか。もちろんそれも悪くはありませんが、非番の普段着くらいはおしゃれをしても悪くないのでは?」 「……すみません。ファッションはあまりよくわからなくて」 「でしょうねぇ。ヴァルハラにいらっしゃる方は、美や教養に興味のない方が多いです。素材は抜群なのにもったいないと思うことがしばしばあります」  ……ちょっと耳が痛かった。アクセルも、美や教養に関してはまるで自信がない。鍛錬ばかりしていないで、もう少し勉強しておけばよかった……と最近よく思う。

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