68 / 2213
第68話
……なんだか怪しさ満点の勧誘だ。ランキング四位の戦士に声をかけられるのは、本来なら光栄なことであるはずなのに、何故かあまり気乗りしない。
というか、美や教養を学ぶだけなら歌劇団に入らなくてもできるのでは……?
「何してるの?」
困っていたら、タイミングよく捜していた人物が現れた。兄・フレインが苦笑しつつ、こちらに近づいてくる。
「もう、ユーベルは……またアクセルを口説いてるね? それ以上口説いたら斬っちゃうよって言わなかったっけ?」
「口説いていたのではありませんよ。わたくしの歌劇団に勧誘していたのです」
「それを口説いてるって言うんだよ」
「価値観の相違ですね。ああ、この際ですからフレインも一緒に入団しませんか? あなた方が加わってくだされば歌劇団も一層華やかになります」
「大丈夫、歌劇団はきみの華やかさでお腹いっぱいさ。これ以上無理にメンツを増やす必要もないよ」
兄は当たり前のような仕草でアクセルの腕をとると、ユーベルに向かって見せつけるように言った。
「じゃ、私たちはこれからデートしてくるから。またね」
「えっ……!? デートって、兄上」
困惑しているアクセルを、兄はどんどん引っ張っていく。もう夕方で陽も暮れかけているのに、一体どこに行くつもりなのか。
「あの、兄上……」
せめて行き先くらいは教えてもらおうと思い、遠慮がちに話しかけた時、唐突に兄が歩みを止めた。そしてあっさりとアクセルを解放し、後ろを確認する。
「この辺でいいかな。ユーベルも追いかけて来ないし」
「えっ?」
「ほら、行っていいよ」
「……いや、行っていいよと言われても」
こんなところで解放されても困ってしまう。そもそも自分は、兄と話がしたくてあちこち捜し回っていたのに。
そう伝えたら、兄はきょとんと目を丸くした。
「ありゃ、そうなの? それならそうと早く言えばいいのに」
「そこは察してくれ、兄上……」
「ちなみにそれは誰かに聞かれてもいい話? それとも、二人きりの方がいい話?」
「……できれば、二人きりの方が……」
「そっか。じゃあ私の家に遊びに来る?」
「えっ……?」
ともだちにシェアしよう!