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第68話

 ……なんだか怪しさ満点の勧誘だ。ランキング四位の戦士に声をかけられるのは、本来なら光栄なことであるはずなのに、何故かあまり気乗りしない。  というか、美や教養を学ぶだけなら歌劇団に入らなくてもできるのでは……? 「何してるの?」  困っていたら、タイミングよく捜していた人物が現れた。兄・フレインが苦笑しつつ、こちらに近づいてくる。 「もう、ユーベルは……またアクセルを口説いてるね? それ以上口説いたら斬っちゃうよって言わなかったっけ?」 「口説いていたのではありませんよ。わたくしの歌劇団に勧誘していたのです」 「それを口説いてるって言うんだよ」 「価値観の相違ですね。ああ、この際ですからフレインも一緒に入団しませんか? あなた方が加わってくだされば歌劇団も一層華やかになります」 「大丈夫、歌劇団はきみの華やかさでお腹いっぱいさ。これ以上無理にメンツを増やす必要もないよ」  兄は当たり前のような仕草でアクセルの腕をとると、ユーベルに向かって見せつけるように言った。 「じゃ、私たちはこれからデートしてくるから。またね」 「えっ……!? デートって、兄上」  困惑しているアクセルを、兄はどんどん引っ張っていく。もう夕方で陽も暮れかけているのに、一体どこに行くつもりなのか。 「あの、兄上……」  せめて行き先くらいは教えてもらおうと思い、遠慮がちに話しかけた時、唐突に兄が歩みを止めた。そしてあっさりとアクセルを解放し、後ろを確認する。 「この辺でいいかな。ユーベルも追いかけて来ないし」 「えっ?」 「ほら、行っていいよ」 「……いや、行っていいよと言われても」  こんなところで解放されても困ってしまう。そもそも自分は、兄と話がしたくてあちこち捜し回っていたのに。  そう伝えたら、兄はきょとんと目を丸くした。 「ありゃ、そうなの? それならそうと早く言えばいいのに」 「そこは察してくれ、兄上……」 「ちなみにそれは誰かに聞かれてもいい話? それとも、二人きりの方がいい話?」 「……できれば、二人きりの方が……」 「そっか。じゃあ私の家に遊びに来る?」 「えっ……?」

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