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第69話
意外なお誘いに、今度はアクセルが目を丸くした。心臓がトクンと脈打ち、じわりと頬が上気する。
「いいのか? 下位ランカーが家にお邪魔するのはペナルティーになるんじゃ……」
「上位ランカーが招いた場合は大丈夫だったはずだよ。それにお前はこの間五〇位以内に入ったでしょ? 一緒に住むことはできないけど、お泊まりならOKだったと思うな。あ、でも違ってたらごめんね」
「…………」
「どうする? 来る?」
夕陽を背にし、兄が穏やかに微笑んでくる。逆光だからか、その微笑みがやたらと眩しく見えた。何よりも尊く、何よりも愛しい――アクセルにとっては一番大切な人だ。
そんな人からの誘いを、断れるはずがない……。
「……行く」
「ふふ、じゃあついておいで」
誘われるまま、アクセルは兄の背を追いかけた。一番星が明るく輝いていた。
***
兄の自宅は、特別区に入ってすぐの小さな洋館だった。シンプルな一階建てで、白塗りの壁が美しい。
「どうぞ、上がって」
リビングに通され、アクセルはぼんやりと周りを見回した。
片付いている、というより物が少ない。リビングにはソファーとテーブルしかなく、隣の部屋にもベッドとクローゼットしか置いていなかった。必要最小限の物しか持たない、非常に質素な生活である。
「何にもなくてごめんね。物を増やすと掃除が面倒で。細々した家事、あまり好きじゃないんだ」
「だろうな。兄上は昔から大雑把だから」
「主夫業はお前の方が向いてるよね。一緒に住めるようになったら、家事はお前にやってもらおうかな」
まんざら冗談でもないような口振りだった。この分じゃ、一緒に暮らし始めたら家事を全部丸投げされそうだ。まあ、それはそれで悪くないが。
「それで、話って何?」
兄がお茶を出しながら聞いてくる。
アクセルは大きく息を吐くと、床に跪いて頭を下げた。
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