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第71話

「なんだー、そんなことだったのか。私はてっきりプロポーズでもされるのかと」 「プロ……!? 何故そうなるんだ!?」 「だって神妙な顔してるし。二人きりで話がしたいとか言うし」 「それは……! 人がいるところでは、ゆっくり話ができないから……」 「まあ、誰かが話しかけてくる可能性は否めないけど。でもどうせなら、謝罪よりプロポーズの言葉が欲しかったなぁ」 「そんな……」 「そう言えば、大人になってからお前の気持ちをちゃんと聞いたことなかったね。せっかくだから何か言ってみて」 「ええ!?」  急なムチャ振りに、アクセルは冷や汗をかいた。  何かってなんだ? 何を言えばいいんだ? 兄への気持ちなら「好き」に決まってるが、そんな一言で表現できるほどこの気持ちは軽くない。  だからと言って、他の言葉を重ねたところで表現できるかと言えば……。  必死にあれこれ考えたけれど、結局ろくな言葉が出てこなくて、アクセルはがっくりと(こうべ)を垂れた。 「……すまない。好きすぎて何も思いつかない」 「えー? 何それ、ずるいなぁ」 「仕方ないだろう。いくら言葉を尽くしても、兄上への気持ちは表現できないんだ」 「はは、そっか。まあ、今更聞かなくてもお前の気持ちはわかってるけどさ」 「…………」  だったら最初から聞くなよ、と思う。愛しの兄上は、時々ちょっと意地が悪い。 「それよりお前、明日は非番だっけ?」  兄が何気なく手に触れてくる。 「ああ。ランキングが上がると雑用も減ってくるから……」 「そうか。……じゃあ、明日一日寝込んじゃっても大丈夫だね」 「えっ……?」  不意に手を引かれ、頭の後ろに手を添えられて口を塞がれる。舌は入れて来なかったが、何度も角度を変えて唇を啄まれた。 「っ……ん……」  唇を離され、今度は頬を指で軽く撫でられる。 「……本当はもう少しランキング上がってからにしようと思ったんだけど。でも、せっかくうちに来てくれたし……私も随分待ったから、もういいかなって」 「っ……」 「お前は? 嫌?」 「…………」  兄に顔を覗き込まれ、アクセルは首を横に振った。  嫌なわけがない。むしろ嬉しいくらいだ。兄が自分を求めてくるなら、自分も全力でそれに応えたい。  ただ……。

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