73 / 2002

第73話*

「やっぱりお前は可愛いね」 「可愛いって……これでも今は兄上と同い年だ。二十七にもなって可愛いというのは……」 「可愛いよ。いくつになってもお前は可愛い。それこそ全部食べちゃいたいくらい」 「えっ……!?」 「ありゃ、なんで驚くの? 私が『食べちゃいたい』って言うのはおかしい?」 「そんなことはないが……ちょっと意外だなと」 「意外?」 「だって兄上、生前はそんな素振り一度も見せたことなかったじゃないか。だから完全に俺の片想いだと思ってた」 「ああ……まあそこはね、ちゃんと隠してたよ。見せられる環境でもなかったし。さすがに十一歳も下の弟に手を出すわけにはいかないしさ……」  音を立てて頬にキスされ、少し長めの前髪を掻き上げられる。至近距離からまじまじと顔を見られて、少し気恥ずかしくなった。 「でも今は私と同い年だもんね。立派な青年に成長してくれて、お兄ちゃん嬉しいよ。……さ、もっと力抜いて」 「ん……」  丁寧に皮を剥くように、着ていた上着を脱がされる。シンプルな黒シャツも裾からそっと捲り上げられ、胸元まで露わになった。  兄が指先で胸の突起に触れてくる。 「……いいね、とっても綺麗だ。色も形も清楚で慎ましい」 「は……」 「なんだか見てるだけで興奮してくるよ。ブレーキ利かなくなっちゃったらごめんね」  微笑んだ唇の端に、鋭い犬歯が見えた。普段は隠している牙が今だけは剥き出しになっていた。これは雄の顔だ。相手を組み敷く時にだけ見せる、男の顔だ。  ――ああ、これは敵わないな……。  こんな顔をされたら組み敷かれる側は何もできなくなる。もちろん最初から抵抗する気などないが、相手を篭絡し心酔させるには十分だった。匂い立つような雄の色香に、アクセルは圧倒されてしまった。  この人になら何をされてもいい。気が済むまで犯してくれてかまわない。どんなにめちゃくちゃにされても悔いはない。そう思えた。

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