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第73話*
「やっぱりお前は可愛いね」
「可愛いって……これでも今は兄上と同い年だ。二十七にもなって可愛いというのは……」
「可愛いよ。いくつになってもお前は可愛い。それこそ全部食べちゃいたいくらい」
「えっ……!?」
「ありゃ、なんで驚くの? 私が『食べちゃいたい』って言うのはおかしい?」
「そんなことはないが……ちょっと意外だなと」
「意外?」
「だって兄上、生前はそんな素振り一度も見せたことなかったじゃないか。だから完全に俺の片想いだと思ってた」
「ああ……まあそこはね、ちゃんと隠してたよ。見せられる環境でもなかったし。さすがに十一歳も下の弟に手を出すわけにはいかないしさ……」
音を立てて頬にキスされ、少し長めの前髪を掻き上げられる。至近距離からまじまじと顔を見られて、少し気恥ずかしくなった。
「でも今は私と同い年だもんね。立派な青年に成長してくれて、お兄ちゃん嬉しいよ。……さ、もっと力抜いて」
「ん……」
丁寧に皮を剥くように、着ていた上着を脱がされる。シンプルな黒シャツも裾からそっと捲り上げられ、胸元まで露わになった。
兄が指先で胸の突起に触れてくる。
「……いいね、とっても綺麗だ。色も形も清楚で慎ましい」
「は……」
「なんだか見てるだけで興奮してくるよ。ブレーキ利かなくなっちゃったらごめんね」
微笑んだ唇の端に、鋭い犬歯が見えた。普段は隠している牙が今だけは剥き出しになっていた。これは雄の顔だ。相手を組み敷く時にだけ見せる、男の顔だ。
――ああ、これは敵わないな……。
こんな顔をされたら組み敷かれる側は何もできなくなる。もちろん最初から抵抗する気などないが、相手を篭絡し心酔させるには十分だった。匂い立つような雄の色香に、アクセルは圧倒されてしまった。
この人になら何をされてもいい。気が済むまで犯してくれてかまわない。どんなにめちゃくちゃにされても悔いはない。そう思えた。
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