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第85話
兄がすぐ隣にごろりと横になってくる。
「は~……柄にもなくがっついちゃった。やっぱり好きな人とやるのが一番いいね」
その言葉に、引っかかっていた疑問が再び頭をもたげてきた。
「……兄上。さっきも思ったんだが、それって……その、俺以外の人ともしたことある、ってことだよな……?」
「んー……まあ、それなりには。男だから溜まることもあるし、一人では発散しきれないこともある。風俗があればいいけど、残念ながらヴァルハラにはそれらしいものはないし。……となれば、見栄えのいい人が優先的に誘われるのは自然な流れだよね」
「…………」
あまりにあっけらかんと語ってくるので、一瞬「そういうものなのか」と納得しかけた。
――いや、ちょっと待てよ。
男が定期的に発散したくなるのは生理現象だ。それは仕方がない。アクセルだって多少は理解できるし、マスターベーションくらいなら……一応したことがある。
でも、だからといって兄が他の男とベッドにいるのを許せるかといえば……。
「…………」
複雑な気持ちを処理しきれず、アクセルはふいと顔をそむけた。
「ありゃ。アクセル、もしや拗ねてる?」
「……兄上が他の人ともしてるなんて言うからだ」
「お前がこっちに来てからはしてないよ。それに、お前以外とはただのストレス発散なんだから、そんなに気にしなくても……」
「そういう問題じゃない! 兄上は大雑把すぎるぞ!」
「おお?」
腹立ち紛れに、アクセルは兄の肩を掴んで後ろに押し倒した。
目を丸くしている兄に、真剣な顔で訴える。
「今までは……俺がこっちにいなかった十一年に関しては――すごく複雑だけど――もうしょうがないと思う。でも、これからはそう気安く他の男を誘ったりしないでくれ。発散したいなら俺がつき合うから……だから……」
兄・フレインの髪に指を通す。この柔らかくてふわふわの金髪が昔から好きだった。髪だけでなく、美しく整った顔も綺麗な身体も――ちょっと変わった性格も、全部好きだ。
そんな兄の隣にいるのが自分じゃないと考えただけで、静かな嫉妬が胸の内で燃えてくる。
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