94 / 2002

第94話

 浴室から出て、さっぱりした状態でキッチンに立つ。  どんな食材があるのかと調べてみたが、イノシシの干し肉や小麦粉等の腐らないものはある一方、ミルクや卵等の万能食材は見当たらなかった。 「兄上……あなたは一体どんな食生活を送っているんだ?」  半ば呆れながら尋ねたら、兄は笑いながら頭を掻いた。 「いやぁ~……買い出ししなきゃなぁと思いながら、つい忘れちゃうんだよね」 「はあ、兄上らしいというか何というか……」 「やっぱり今から宴行ってご飯だけ食べてくる?」 「いや、いい。何とかする」  アクセルは小麦粉に水を加えて練り、団子のような生地を作った。イノシシの干し肉も細かく刻み、一足先に沸騰した湯の中に投入する。  干し肉が柔らかくなり、出汁も出てきたところで一口サイズに丸めておいた団子を鍋に入れた。  それを適当に煮て、塩・胡椒で味付けをして火から下ろした。水団みたいなスープができた。 「兄上、できたぞ」  カウンター越しにこちらを覗いていた兄が、嬉しそうに笑みをこぼした。 「わあ、ありがとう。では早速いただこうか」  皿に半分ずつスープを盛り、テーブルに向かい合って食事をする。干し肉だけの水団もどきだが、味はそれほど悪くない。具材を増やせばもっと食べごたえが出てくるだろう。  兄がスプーンを片手にしみじみと言う。 「ふふ、アクセルがご飯作ってくれるなんて。なんか夢みたい」 「いや、そんな……。そこまでたいしたことはしてないぞ」 「うん、でもね……こういう日常の中にお前がいるってすごく久しぶりな気がして」 「……!」 「いいよね、こういうの。まさに家族って感じ」  にこっと微笑んで、シンプルなスープを口にするフレイン。  今更ながら兄の孤独に気付き、アクセルはそっと目を伏せた。  ――そうか、兄上もずっと一人で……。

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