97 / 2002

第97話

「……なんだか随分夢が多いな?」 「細かい夢ならたくさんあるよ。『一緒にご飯食べたい』とか、『紅葉狩りしたい』とか、『買い物に行きたい』とか、いろいろね」 「そうか……。そういう簡単なことならいつでも付き合うが」 「ほんと? じゃあ今度紅葉狩り行こうか。今はとってもいい季節だからさ」  頷いたら、兄は心底嬉しそうに笑った。兄が笑ってくれればアクセルも嬉しい。  ――幸せだな……。  ヴァルハラに来てよかった。ここなら悲しい死別もない。血筋や年齢等に縛られて気持ちを封印する必要もない。  兄に追いつくために死に物狂いで鍛錬してきたけれど(まだ完全には追いついていないが)、それはもしかしたら、この幸せを得るためだったのかもしれない。 「兄上……」  ずり上がって、兄の柔らかな髪に鼻先を埋めた。ほのかに甘い香りがした。  兄の腰に手を回して胸元に引き寄せる。全身で包み込むように、優しく抱き締めた。 「あなたが好きだ。物心つく前からずっと」  そう言ったら、兄も背中に両腕を回してきた。幸せそうに首筋に顔をすり寄せ、抱擁を返してくる。 「うん、私も愛してる。お前が生まれた時からずっと」  兄がすぐ下から見つめてくる。青い瞳に慈愛のような光が宿っていた。  アクセルは兄の頬に片手を添え、遠慮がちに口付けた。初めて自分からキスした。兄のように上手なキスはできないけれど、精一杯の気持ちは込めたつもりだ。  その後は、お互い身体を寄せ合って眠った。とてもいい夢を見たような気がした。 ***  翌朝、アクセルは兄より一足先に目を覚ました。自分が起きた時、本当に隣に兄がいて、まだ夢を見ているような心地がした。  兄を起こさないように、そっとベッドから降りる。冷たい水で顔を洗い、普段着に着替えたところで、手持ち無沙汰になり椅子に座り込んだ。  ――そう言えば、朝食の食材が何もないんだった……。  残っていたわずかな食材は、昨日の夕食で消えてしまった。朝の市場で買い物をしたいが、兄を残して出掛けるわけにもいかない。  さて、どうするか……。

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