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第98話

「んん……アクセル……」  悩んでいたら、兄がもぞもぞとベッドから這い上がって来た。綺麗な金髪はぐしゃぐしゃに(もつ)れ、爆発したように毛先が飛び跳ねている。 「おはよう、兄上……。なんかすごい髪だな」 「……そうなんだよね。直すの面倒で嫌になっちゃう……」  兄の髪は細くて柔らかいから、一晩眠ると大抵ああなってしまうそうだ。  乱雑に櫛で髪を梳かしながら、兄は事もなげに言う。 「はあ……もういっそのことスキンヘッドにしちゃおうかなぁ」 「……え? スキンヘッド?」 「そう。それならお手入れもないから楽でしょ?」 「いや……確かに楽かもしれないが、それはちょっと……」 「だめ? じゃあベリーショートにしとこうか」 「……いや、そういうことではなく」  兄からやんわりと櫛を取り上げ、代わりに丁寧に櫛を入れてやる。 「こんな綺麗な髪、短くするなんてもったいないだろ。俺は兄上の髪、昔から好きなんだぞ」 「あれ、そうなの? そんなの初めて聞いたけど」 「言う機会もなかったからな。でも、子供の頃は『俺も兄上みたいな髪がよかった』って思ったものだ」  兄・フレインが綺麗なプラチナブロンドなのに対し、アクセルは中途半端な茶髪である。昔から太陽の下で輝く兄の髪が羨ましくて、「なんで俺はああじゃないのか」とかなり真剣に悩んだものだ。成長するにつれてほとんど気にしなくなったが、今でも兄の髪に触ると嬉しくなる。  そんな髪を切るとか、ましてやスキンヘッドにするだなんてアクセルには考えられなかった。 「はは、そうか。お前がそういうなら、切るのはやめようかな」 「そうしてくれるとありがたいな」  時間をかけて丁寧に髪を整え、いつもの髪型に戻してやる。サラサラした指通りを確認し、兄に櫛を返却した。 「はい、できたぞ」 「ありがとう。助かったよ」  いい子いい子、と頭を撫でてくれる兄。子供の頃は、頑張って鍛錬する度にこうやって褒められたものだ。大人になった今では少し照れくさいが、兄に褒められて嬉しいのは昔から変わらない。こういうところは、自分はいつまで経っても「弟」なんだなと思う。

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