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第106話(フレイン視点)

 ヴァルハラの戦士は、斬られて死んでも棺に入れてしまえば蘇生が可能だ。  ただし、死体がなくなってしまった場合はその限りではなく、例えば大イノシシに食われてしまったとか、死体を火山に放り込んだとか、そういうことをすると蘇生はできないと言われている。  フレインも、かつては蘇生できないくらいの仕打ちをしたことがある。もちろん理不尽に対する報復だったので一切後悔はしていないが、殺した戦士の死体を火山に放り込む瞬間は、さすがに少し躊躇ったものだ。  だが、フレインが一見非道な行為に走ったのはハッキリとした理由がある。  ――アクセルまで私と同じ目に遭わせるわけにはいかないし。  フレインがヴァルハラに来たばかりの頃は、今とは比べものにならないくらい治安が悪かった。特にフレインは容姿が優れていたから――突然集団に襲われてその場でマワされることも少なくなかった。武器を持っていようが友人と一緒にいようが関係なかった。  フレインが来る前は、ジークもユーベルも――あのミューでさえ、襲われたことがあるという。  野蛮な時代だったのだ。少しでも見目のいい戦士は、発散の餌食にされるのが当たり前だった。中には気のいい人格者もいたが、皆「ヴァルハラとはこういうものだ」と、当時のカオスっぷりを受け入れていた。物陰で好き放題犯されている戦士がいても止めに行く人はおらず、見て見ぬフリをするのが常だったのだ。  これはダメだと思った。こんなところに大事な弟を招くわけにはいかない。アクセルは自分と違ってとても初心で純粋なのだ。こんなひどい目に遭わされたら、絶対に心が壊れてしまう。  だからフレインは、同じような被害に遭っていた戦士と共に改革を断行した。自分のランキングを上げつつ、治安を乱していた荒くれ者を片っ端から粛清していった。  様々な障害もあったが、これをきっかけにヴァルハラの細かいルールができ、ランクによる権限が明確にされ、見回り当番が発足されたり、違反者にはペナルティーが課されるようになったのである。

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