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第108話(フレイン視点)

 獣じみた連中を始末したことを後悔はしていない。けれど一部の戦士から恨まれていることは事実だ。  そんな連中にとって、愛弟・アクセルは格好の獲物だろう。フレインはランクが高すぎて直接手出しできないから、代わりに弟を……と考えるのは自然な流れである。アクセル本人はそんな事情など知る由もないが、理不尽な嫌がらせを受ける可能性は十分だ。 「……私も一緒に見回りしようかなあ」  そう呟いたら、ユーベルに呆れた顔をされた。 「あなたは正式な当番ではないので、斬ったらペナルティーになりますが?」 「殺さなければセーフじゃなかったっけ?」 「あなたの場合、『斬る』のと『殺す』のはほぼ同意でしょう。それに、これ以上ランクを落とすといろいろ不都合になるのでは?」 「アクセルに何かあるよりマシだよ」 「おー、さすがフレイン。弟くんに激甘だな」  ジークにも呆れられてしまったものの、大事な弟を守るのは兄の役目だ。何もおかしなところはない。自分にとっては当たり前のことである。 「ま、どうしても心配ならこっそり見張るのもアリだけどな。弟くんの場合、腕っぷしはともかく、人のよさにつけこまれる可能性はある。そこは兄貴と違ってまだまだ青いからな」 「そうなんだよー。アクセルは素直で真面目で、誰に対しても誠実なんだけど、そこがちょっと不安でさ。悪い男に騙されやしないかって、心配でたまらないんだ」 「……まあ、自分がピンチなのに野生の子うさぎを守ってしまうようなお人好しですからね。ヒヤヒヤする気持ちはわかります」 「だろう? もっとも、あの人のよさがなくなったらアクセルじゃないけどね」  だからこそ、大事な時は兄である自分が守ってあげなくては……と強く思う。  フレインはにこりと微笑み、二人の友人に向かって手を振った。 「じゃ、私はちょっと弟を尾行してくるよ。何かあったら助けてね」 「その時は、弟くんと一緒にユーベル歌劇団に入ってくださいね」  ユーベルの戯言を聞き流し、その場を離れた。  さて、アクセルはどこに行っただろうか……。

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