113 / 2015

第113話

「わかった、俺も手伝うよ。落とし物の届け出も出しておく。ええと……」 「僕ですか? ロシェって言います」 「ロシェか。落としたのはこの辺りなのか?」 「いや、それが……ランニングの途中だったので、ここじゃないかもしれないんですよね。もっと奥の方かも」 「なるほど。じゃあ、念のためにランニングコースを教えてくれ」  アクセルはロシェの案内通り、森の奥に進んでいった。しばらくは歩きやすい道が続いていたが、数メートル進んだところでロシェは横道に逸れていった。  そこはランニングには不向きな茂みが多いのだが……。 「……そっちを通ったのか?」 「ええ、まあ。たまには違うところを通りたくなって」 「……。それで、そのペンダントについてる石って、何色なんだ?」 「緑ですかね。だから森で落とすと余計に見つけづらくて」 「そうか……」  それはまた随分と探しにくい落とし物だ。とはいえ、落とし物探しも見回り当番の仕事なので嫌とは言えない。  アクセルは腰を落とし、足下に視線を移した。 「この辺か?」 「うーん、もっと奥ですかね?」 「もっと?」  茂みを掻き分け、更に奥に進む。  そのまま足下に集中していたら、右足を一歩踏み出した途端、ガクンと足下が沈んだ。 「えっ……?」  バランスを崩し、前のめりに身体が傾く。左足で踏ん張ろうと前に出したのだが、そこにはあるべきはずの地面がなかった。  気付いた時には、アクセルの身体は宙に放り出されていた。 「うあっ!」  崖の下に荒い砂利が広がっているのが見えて、アクセルは青ざめた。あそこに直接落ちたら、確実に即死だ。 「くっ……!」  空中で体勢を整え、二振りの小太刀を抜き放つ。そして、それを切り立った岩壁に突き立てた。落ちていく勢いのまま岩がガリガリ削れ、小太刀からも火花が散った。  次第に落下の重力が弱まり、どうにか岩壁の真ん中辺りでストップした。

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