114 / 2015

第114話

「はっ……はあ……あ……」  チラリと眼下に視線を落とした。  地面までまだ十メートル弱ある。即死は免れたが、まだ油断できない。下手に落ちて打ちどころが悪かったら死ぬ。  かといって、ここから崖上に這い上がることは難しい。緩いカーブを描いて反り返っているし、そもそも自分にここを登り切るだけの腕力があるかと言えば……。  ――兄上の太刀に憧れて使い始めたけど、結局腕力が足りなくて小太刀に持ち変えたクチだからな……。  自分で自分に呆れつつ、アクセルはもう一度足元に目をやった。ここからだとかなり高く見えるが、受け身をとれば大丈夫なはずだ……多分。  思い切って小太刀を引き抜き、重力に従い落下した。頭を打たないようになるべく背中を丸め、着地する瞬間に地面を蹴って衝撃を緩和する。 「……おっ、と……」  砂利道に降り立った途端、前のめりに転んで擦り傷ができてしまったが、おおむね着地成功といったところか。結果的にはたいした怪我をしなくてよかった。  ――というか、あのロシェってやつはどうしたんだ……?  森を見上げたが、こちらを覗き見る様子もない。一人で帰ったかな、と思った。最初の話からして少々おかしかったから、本当は落とし物なんてしていなかったのかもしれない。落とし穴に人を落とすようなノリで、悪戯半分にアクセルを崖に誘導したんだろう。  それに引っかかってしまう自分も自分なので、ロシェを非難するつもりはないけれど。  ――しかし、どうしたものか……。  自力で崖を登れない以上、どこか別の道を探すか、誰かに迎えに来てもらうしかない。緊急呼び出し用の鈴は携帯しているが、これはあまり使いたくなかった。崖から落ちてしまったので助けて欲しい……だなんて、なんかかっこ悪いではないか。  これは最終手段としてとっておこう……と思いつつ、アクセルは他の道を探した。しばらく崖沿いを歩いてみたが、登れそうな場所は見つからない。どこかに梯子みたいなものがかかっていないかと期待してみたが、それらしいものもなかった。  落ちてしまった人のために、鉄製の梯子を取り付けるべきだな……と考え、一旦足を止めた。

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