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第114話
「はっ……はあ……あ……」
チラリと眼下に視線を落とした。
地面までまだ十メートル弱ある。即死は免れたが、まだ油断できない。下手に落ちて打ちどころが悪かったら死ぬ。
かといって、ここから崖上に這い上がることは難しい。緩いカーブを描いて反り返っているし、そもそも自分にここを登り切るだけの腕力があるかと言えば……。
――兄上の太刀に憧れて使い始めたけど、結局腕力が足りなくて小太刀に持ち変えたクチだからな……。
自分で自分に呆れつつ、アクセルはもう一度足元に目をやった。ここからだとかなり高く見えるが、受け身をとれば大丈夫なはずだ……多分。
思い切って小太刀を引き抜き、重力に従い落下した。頭を打たないようになるべく背中を丸め、着地する瞬間に地面を蹴って衝撃を緩和する。
「……おっ、と……」
砂利道に降り立った途端、前のめりに転んで擦り傷ができてしまったが、おおむね着地成功といったところか。結果的にはたいした怪我をしなくてよかった。
――というか、あのロシェってやつはどうしたんだ……?
森を見上げたが、こちらを覗き見る様子もない。一人で帰ったかな、と思った。最初の話からして少々おかしかったから、本当は落とし物なんてしていなかったのかもしれない。落とし穴に人を落とすようなノリで、悪戯半分にアクセルを崖に誘導したんだろう。
それに引っかかってしまう自分も自分なので、ロシェを非難するつもりはないけれど。
――しかし、どうしたものか……。
自力で崖を登れない以上、どこか別の道を探すか、誰かに迎えに来てもらうしかない。緊急呼び出し用の鈴は携帯しているが、これはあまり使いたくなかった。崖から落ちてしまったので助けて欲しい……だなんて、なんかかっこ悪いではないか。
これは最終手段としてとっておこう……と思いつつ、アクセルは他の道を探した。しばらく崖沿いを歩いてみたが、登れそうな場所は見つからない。どこかに梯子みたいなものがかかっていないかと期待してみたが、それらしいものもなかった。
落ちてしまった人のために、鉄製の梯子を取り付けるべきだな……と考え、一旦足を止めた。
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