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第116話

 ――随分と好奇心旺盛なうさぎだな……?  うさぎは基本的に臆病だったはずでは……と思っていると、その子はアクセルの足下に寄ってきて、ブーツの先端をカリカリかじり始めた。 「おいおい、それは食べられないぞ」  小さく笑いながら、腰をかがめて手を伸ばす。今度こそ逃げるかと思いきや、ちゃんと頭を撫でさせてくれて、それどころか嬉しそうに身体をすり寄せてくれた。  思い切って抱き上げてみたら、アクセルの指先をグローブの上から甘噛みしてくる。  ――何故こんなに懐かれているんだ、俺は?  うさぎを抱っこしながら首を捻り、ふとあることを思い出した。 「きみ、もしかしてこの間の子うさぎか? 山で片足を怪我してた……」 「ぴー」 「そうなのか」  うさぎなのに「ぴー」と鳴くのは疑問だったが、ヴァルハラなので摩訶不思議な動物がいてもおかしくない。オーディンの愛馬など、脚が八本あるというし。  ――なるほど、道理で……。  白くて小さくてもふもふしてて可愛い。ちょっと鬱々としていたから、気が紛れた。  微笑みながらうさぎを撫でつつ、アクセルは試しに聞いてみた。 「ところできみ、この辺りに住んでいるのか? 森の出口ってどこかわかるかな……」 「……ぴ?」 「はは、わからないよな。気にしないでくれ。いざとなったら鈴を使うから……」  そう言った途端、うさぎはぴょんとアクセルの腕から飛び降り、ぴょんぴょん飛び跳ねながら森の中に入っていった。後ろを振り向き、アクセルの様子を窺ってくる。 「案内してくれるのか?」 「ぴー」 「そうか……ありがとう、ピピ」  自分のペットではないが、便宜上「ピピ」と呼ぶことにした。「ぴー」と鳴くから「ピピ」、そのままである。  兄ならもう少しおしゃれな名前をつけそうだが、自分はこの程度のネーミングセンスしかないので仕方がない。

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