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第119話※

「はあっ!」  間合いに踏み込んできた狼に、右の小太刀を振り下ろした。頭部を斬り裂き、削ぎ落とした首を別の狼に投げつけ、邪魔になった胴体を蹴散らす。  だが次の瞬間、無防備だった左腕に別の狼が噛みついてきた。振り払う間もなく凄まじい力で肉と骨を噛み砕かれ、肘から下を食い千切られてしまう。 「っ……!」  痛みに怯んでいる間もなく、次の狼が襲ってくる。残った右腕で応戦したものの、突っ込んでくる狼の勢いを止めきれず、吹っ飛ばされて岸壁に叩き付けられた。 「ぐはっ……!」  鉄の味を舌に感じ、歯を食い縛って衝撃に耐える。小太刀を突きながら立ち上がりかけたが、すぐ目前に開いた牙が見えて息を呑んだ。獣くさい呼気が頬に直接伝わってきた。  ――兄上……!  ここで喰われたら兄に会えなくなってしまう。ただ噛み殺されるだけならまだしも、肉体を失うのは絶対に嫌だ。  せっかく想いが遂げられたのに……まだやりたいことがたくさんあるのに……こんなところで兄と死に別れるなんて……!  視界が絶望一色で塗り潰された次の瞬間、突然大口を開けた狼が横に吹き飛ばされた。 「やれやれ、生意気な狼どもだね」  小さなマントを優雅に(ひるがえ)し、ある人物が目の前に降り立つ。 「アクセルを食べていいのは私だけだよ」 「兄上!」  愛用の太刀を振るい、容赦なく狼の首を落としていく兄。手こずっていた狼が一気に減り、あっという間に半分以下になった。なんて頼もしい……。 「無事かい、アクセル?」 「な、なんとか」 「……そう、よかった」  心底ホッとしたように兄が微笑んだ。その顔を見たら、つい涙がこぼれそうになった。 「はーい! 狼さん、元気ー?」  やや遠くから、ミューが大鎌を振り回しながら突っ込んでくる。 「お肉になりたくなかったら早く逃げてねー! フレインが捌いて、アクセルが料理しちゃうよ~!」  一振りすれば、面白いように狼が死んでいく。  さすがに狼も分が悪いと悟ったのか、ボスを先頭に森へ逃げ帰っていった。

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