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第120話

「はあっ……はあ……くっ……」  安心した途端、思い出したかのように腕の痛みに襲われた。疲れもどっと出てきて、足元がふらつく。 「ほら、掴まって」  兄が肩を貸してくれた。そしてやや目を細めて左腕を見やる。あるべきはずの手は狼に噛み千切られて途中でなくなっていた。 「まったく……他の見回り当番は何してるんだろうね? 鈴が鳴ったのに誰も助けに来ないなんて」 「……あまり期待してなかったけどな。でも、何故兄上が……?」 「広場に鈴が捨ててあったんだ。なんか嫌な予感がすると思って追いかけたけど、お前、すごく変なところにいるから捜しちゃったよ」 「すまない……。お手を煩わせてしまって」 「いやいや、完全に喰われる前でよかった」  愛おしそうに頬に触れ、輪郭を撫でてくる。 「本当は、腕がなくなる前に来てあげたかったけど……」 「……いや、来てくれただけでもありがたい。今度ばかりはもうだめだと思ったし……」 「私もちょっとヒヤッとしたよ。今後は一人で森に入らないようにね」 「ああ、もちろんだ」  そう頷いた時、胸元がもぞもぞ動いてピピがひょこっと顔を出した。 「おや? お前、またうさぎを庇ってたのかい?」 「ははは……迷ってたところを道案内してくれたものだから、つい」  アクセルは無事だった右手でピピを抱き上げると、そっと地面に下ろした。 「巻き込んでしまってすまなかったな。もう大丈夫だから、きみは家にお帰り」 「……ぴ?」 「元気でな」 「ぴー……」  ピピに別れを告げ、再度兄の肩を借りる。  一緒に助けに来てくれたミューは、大鎌と一緒に先程狩った狼を背負っていた。 「よし! じゃあぼくが森の出口まで連れてってあげる。街に戻ったら狼のシチュー作ってね」 「……ああ、わかったよ」  でもその前に腕を治させてくれ……と思いつつ、ミューについていった。

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