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第127話

「ロシェ」 「な、なんですか……?」 「落とし物、見つけられなくてごめんな」 「えっ……?」  ロシェが目を丸くした。そんなことを言われるなんて全く思っていなかったようだ。  アクセルはあえて小さく微笑んだ。 「次はちゃんと落とし物見つけるから、崖に誘導するのはやめてくれよ?」 「え、あ……」 「それとウルフ、今度は一緒に見回り当番しよう。やっぱり一人だといろいろ不安だからな」 「あ、ああ……」 「ではまた明日。……兄上、行こう」  それだけ言って、アクセルは三人に背を向けた。いろいろ言いたいことはあったが、細かい不満をグダグダ述べるより、こう言った方が効果的なのではないかと思った。  ふと、背後から兄の低い声が聞こえてくる。 「……アクセルは優しいけど、私は優しくないからね? 次同じことしたら容赦しないよ」 「は、はい……」  三人が萎縮した様子が窺える。なるほど、兄らしい脅し方だ。兄が怒ると死ぬほど恐ろしいのは自分が一番知っている。 「ほんとにアクセルは優しいねー」  黙って傍観していたミューが、こちらを見上げてきた。 「問答無用で斬っちゃってもよかったのに」 「それじゃ恨みを買うだけだよ。それでまた嵌められたら、同じことの繰り返しだからな」 「そっかー。でもあいつら、ちゃんとアクセルの言いたいことわかってくれたかなー?」 「大丈夫だよ、多分。そこまで話の通じない連中じゃないはずだ」  大変な目に遭ったが、結果的には無事で済んだ。これ以上余計なことは考えたくない。  アクセルは気持ちを切り替えて、森の入口に向かった。  森に近づくにつれ、ピピが耳元で鳴き始めた。アクセルの髪を噛んだり引っ張ったりと、帰りたくないことをしきりにアピールしている。 「ぴー、ぴー!」 「う……ちょっとピピ……」 「ふふ。お前、本当に好かれてるねぇ」 「兄上、笑ってないで助けてくれ……」  どうにかピピを引き剥がし、腕に抱いて地面に下ろそうとする。そこでも裾を噛んだりしてなかなか離れてくれず、一悶着あった。

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