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第128話

「ほら、いい子だからもう帰るんだ。早くしないと暗くなってしまうぞ」 「ぴぃ……」 「またすぐ会いに来るから。だからそれまで元気でな。くれぐれも狼に喰われないように」 「ぴー……」 「じゃあ、またな」  ピピに手を振って、アクセルはその場を立ち去った。あえて振り返ることはしなかった。振り返ったら、自分も情に絆されてしまいそうだったのだ。 「はー、やっと終わった。じゃあ次はぼくの番~! 狼料理作ってー」 「あ、うん……そうだな」  一人ではしゃいでいるミューを見たら、少し気が紛れた。  アクセルは自宅の庭で兄と一緒に狼を捌き、食べられるところと食べられないところに分けた。 「狼さん♪ 狼さん♪」  ミューは目を輝かせながら手元を覗き込んでいたが、実際に捌いてみると肉質が硬く、食べられるところも少なそうだった。期待しているところ申し訳ないが、あまり豪華な料理にはならないと思われる。 「うーん、ミューもよく狼の肉なんて食べようと思うよねぇ」  硬い肉を包丁で叩き、なるべく柔らかくしている兄。かなり大雑把な叩き方だったが、兄と一緒に台所に立てるのは嬉しかった。 「私はやっぱり、イノシシか鹿の肉がいいかも。これとは別に、ステーキでも作って欲しいな」 「ああ、そうだな」  朝買ってきたイノシシの生肉があるから、それを使おう。  それと野菜を煮込んだスープを作って、バゲットも一緒に添えて……と献立を考えていたら、兄がくすりと笑みを漏らした。 「ちょっと落ち込んでる? うさぎちゃん飼えなくて」 「え? いや、そんなことはないが……」 「そう? さっきから反応悪いから落ち込んでるのかと」 「ん……まあなんだ、その……少し残念というのは事実かもしれない」 「そっか」  兄が、柔らかくした狼肉を切り分けている。一口サイズにしてくれと言ったのに、大きさがかなりまばらだ。 「でも私は少しホッとしたかな」 「ホッと……? 何故?」

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