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第129話
「あのうさぎちゃんを飼ってしまったら、お前はうさぎちゃんだけに夢中になりそうだからさ」
「えっ……?」
意外な言葉に、アクセルは目を丸くした。
兄が細長く切れた狼肉を摘み上げる。
「もちろん、ペットを可愛がるお前も好きだけど。でも弟の一番は、常に私でいたいからね」
「…………」
「それにしても上手く切れないなあ。この包丁、切れ味悪すぎじゃない? 刀使った方が早いかも」
「……兄上」
包丁を置いて太刀を取りに行こうとする兄を、アクセルは背後から抱き締めた。少し驚いた兄のうなじに頬を寄せる。
「今後どんな人や動物が現れても、俺の一番は常に兄上だ。それはずっと変わらない」
「ほんと?」
「もちろんだ。俺は昔から兄上一筋なんだぞ?」
「はは、そうだったね。今更心配することないか」
兄は軽やかに笑い、下から手を伸ばしてぽんぽんと髪を撫でてきた。あんな小さなうさぎにヤキモチを焼くとは、兄にも可愛いところがあるものだ。
「ねー、狼料理まだー?」
「わっ……!」
ミューが台所を覗きに来て、アクセルは慌てて兄から離れた。
「あれ、またイチャイチャしてる。二人とも、ほんとに仲良しだねー」
「す、すまない……。今すぐ作るから」
……今日はこれで二度目だ。咎められはしないものの、なんとなく決まりが悪い。
「じゃあ私はあっちで包丁研いでるね。また肉切る必要があったら呼んで」
「あ、ああ……」
包丁と研ぎ石を持ち出し、兄は台所から出て行った。
二人きりになったところで、ぽつりとミューが言う。
「……ちょっと羨ましいな、二人みたいな関係」
「えっ!? いや、それは……」
「あ、変な意味じゃなくて。単純に仲良し兄弟が羨ましいってこと。ぼくにも兄弟いっぱいいたけど、仲がよかった記憶はないからねー」
「そうなのか……?」
「うん。他人の方が仲がいいくらいだった。でも珍しくもないでしょ。一番の敵は身内だって言うし」
「それは……」
「だからアクセルとフレインみたいな関係、ちょっと羨ましいなーなんて。なんでも話せて自然とわかり合える……みたいな? そういうの、いいよね」
ミューの顔には、「羨ましい」以上の感情は含まれていなかった。ただ純粋に「いいな」と思っているだけで、自分たちの仲をどうこうするつもりはさらさらなさそうだった。
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