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第134話*

「っ……」  ぽたり、と背中に雫が落ちてきた。兄の汗だろうか。この状況で興奮できるなんて、兄もなかなか鬼畜である。  もっとも、そんな兄を嫌いだと思えない自分も、なかなかの変態である気もするが。 「どうして……」 「……?」  兄の呟きが聞こえ、アクセルは背後を振り返った。そして驚愕した。背中に落ちてきたのは、汗などではなかった。 「どうしてわかってくれないんだ、アクセル……」  兄が泣いている。綺麗な顔をわずかに歪ませながら、静かに涙をこぼしている。  ――兄上……!?  初めて見る兄の涙に、アクセルは少なからず動揺した。人間だった頃も、ヴァルハラに来てからも、兄が泣いているところなんて見たことがなかったのだ。 「んん、う!」  どうにか言葉を伝えたくて、一生懸命首を振った。詰め込まれている下着を舌で押し出し、ようやくペッと吐き出す。やっとのことで口が自由になり、アクセルは咳き込みながらぜいぜいと息をした。 「わかってるよ、兄上……」 「…………」 「あなたの気持ちは、苦しいほどわかってる……」 「それなら何故……」 「あなたが好きだから……!」  半分、怒鳴るように言う。 「大好きだから、不安になるんだ……!」 「……それがよくわからないんだけど。両想いなら不安になる必要ないじゃない」 「それとこれとは別なんだよ……!」  この際だからと思い、アクセルは思いの丈をぶちまけた。 「兄上は……俺なんかよりずっと綺麗だし、強いし、友人も多い……そして、自由で気まぐれだ……。今はいいけど、いつまた気が変わってしまうかもわからない……。それに俺は、ランクが上がっても兄上に助けてもらってばかりで……兄上の言う対等な関係に全然なれていない……。そんな時に、ミューから『不仲な兄弟』のことを聞かされたから、俺……」 「…………」 「このままじゃ……こんな情けないままじゃ、兄上は……いつか俺に愛想を尽かして、他の誰かのところに行ってしまうんじゃないかって……。人の気持ちなんて、永遠に変わらない保証はないし……」 「……そうか」  兄は動きを止めて、静かに言った。

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