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第135話*
「……お前は自分に自信がないんだね」
「えっ……?」
「自分に自信がないから、私が愛想を尽かしてしまうなんて思うんだ。お前は今のままでも十分魅力的だし、私にない面をたくさん持っているのに、それじゃダメだと思い込んでるんだね……可哀想に」
「か、可哀想……!?」
憐れまれているのか、俺は!? 馬鹿にされるのはいいけれど、憐れまれるのは少々心外である。
けれど兄は淡々とした口調で続けた。
「だってそうだろう? 自分に自信がないから、『こんな自分なんて愛されるわけがない』と思ってしまう。いくら私が『好きだよ』って言っても、その気持ちすら信じられない。それじゃあ不安になって当然だよね」
「う……」
そこまで大袈裟な話ではないのだが、アクセル自身が――誰に言われたわけでもないのに――事あるごとに兄と自分を比べながら生きてきたのは事実かもしれない。
何しろ物心ついた時には、既に強くて美しい兄が隣にいたのだ。アクセルはそんな完璧な兄を常に見ながら生きてきて、いつも「あんな風になりたい」と強い憧れを抱いていた。
だけどそれは逆に言えば、「兄上はあんなに優れているのに、なんで俺はだめなんだろう」という劣等感に他ならない。
――ほんとにだめだな、俺……。
自分の劣等感のせいで、兄の愛情まで否定してしまった。そんな情けない自分が嫌だ。嫌だと思う自分も嫌だ。
「兄上……」
ぐすん、と鼻を鳴らし、アクセルはぽつりと言った。
「……そんな大袈裟な話じゃないんだ。最初はただ単に、兄上と不仲になったら嫌だなと思っただけで……本当に、それ以上の意味はなくて……うっ!」
兄がこちらに身体を倒してきて、硬い楔が腹の奥に食い込んできた。
呼吸が乱れそうになるのをなんとか堪えつつ、更に言う。
「でも突き詰めて考えたら、兄上に指摘された通りかもと思えてきた……。こんなに不安なのは、自分に自信がないからだって……。兄上を繋ぎ止められるくらいの魅力が自分にないって……そう思い込んでるせいなんじゃないかって……」
「……そうか」
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