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第145話

「もちろん応援してるさ。でも、兄上がどれだけ命を燃やしてくれるかの方が楽しみだ」  死合いとは命懸けの真剣勝負である。  死を恐れない者同士が本気で相手と斬り合う瞬間、その命はまぶしいほどに光り輝く。紙一重まで迫ってきた死を前にして、肉体は限界を超え、脳は活性化し、命は燦然と燃え盛る。  その輝きこそ、この世で最も美しいものだ。少なくともアクセルはそう思う。  ――兄上なら、誰よりも美しく輝いてくれるはず。  想像するだけで身体が疼く。戦士としての血が滾る。  待ちきれなくなり、アクセルは席を立って食器を片付けに行った。そして食堂を出て、試合会場へ向かった。  会場の受付当番に、兄に席をとってもらった旨を伝えると、会場の一番見やすいボックス席に案内された。  会場全体を見渡せるよう、少し高い位置に専用席が設けられており、視界を遮らないように座席が横並びに四つ並んでいる。どうやらこのボックス席、定員は四名のようだった。  他に誰か見に来る人がいるんだろうか……と、そのうちのひとつに腰かけようとしたら、 「とうっ!」 「ぶっ……!」  後ろからタックルされて盛大につんのめった。誰かと思って振り返ったら、小柄な少年がにこやかに手を振ってきた。 「やっほー! アクセルも死合い見学に来たの?」 「ミュー? それに、ジーク様とユーベル様も……」 「よっ、弟くん。元気か?」  と、ミューの後ろからジークが顔を出す。ジークの隣にいたユーベルはわざとらしい素振りで額に手を当てた。 「ああ……ドレスコードはないとはいえ、あなたの格好は相変わらず野暮ったいですねぇ。わたくしユーベル、熱が出てきそうです。ここはやはり、フレインと一緒にユーベル歌劇団に……」 「えー……それはともかく、三人とも観戦ですか? このボックス席で?」 「そうだよー。フレインに言ったら、『アクセルと一緒に観戦すればいいよ』ってボックス席貸し切りにしてくれてさー。これでお茶もお菓子も食べ放題だね!」  と、ミューが棒についた水飴を舐める。会場のボックス席はいわゆるVIP席扱いなので、当番を呼び出せばお茶もお菓子も自由に飲み食いできるのだ。

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