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第146話

「と言っても、飲み食いなんてしてるヒマはないと思うぜ? なんたってあの二人の死合いだからな。きっと会場も荒れるだろうよ」  ジークが席のひとつにドカッと腰を下ろす。  アクセルは、ミューとユーベルが席に着いたのを確認してから、最後に空いている席に腰かけた。顔見知りとはいえ、自分のランクは四人の中で一番低い。序列は守らなければ。 「ジーク様は、兄がランゴバルト様と死合いをしたこと、見たことあるんですか?」 「ああ、何度かな。どっちも戦い方が過激だから、毎回大変なことになるんだよ。この席までは影響ないだろうけど、最前列にいる連中は防具必須だ」 「……そこまで?」 「まあ見てりゃわかるさ」  少し身を乗り出して最前列を確認してみたら、何かを防ぐような透明なプレートが席の前についていた。あそこまで血が飛び散るということだろうか。それとも、砂や土が?  ――この会場も、そこまで狭いわけではないのだが……。  一対一の死合いで、観客席まで血や砂が飛び散ることは滅多にない。少なくともアクセルは、そこまで激しく戦ったことはない。  逆に言えば、それだけ苛烈な死合いが行われる可能性があるということだ。ランキング二位と元ランキング三位の戦士が本気で戦ったら、それくらい会場が荒れてしまうということだ。 「死合いに限っては、荒れてナンボというところがありますからね。優雅さは期待しない方がよろしいかと。よって、ボックス席での飲み物はこぼれてもいい水、お菓子は一口で食べられるチョコレートをおすすめします」  と、ユーベルが当番を呼びつけて「ユーベルの華麗なる観戦セット」を持って来させていた。  そんな世間話をしていたら、いよいよ死合い開始時間がやってきた。会場は満席、立ち見席もぎゅうぎゅう、当の対戦者が入ってくる前から熱気に包まれている。  会場の両端から、兄・フレインとランゴバルトが登場した。

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