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第149話※

「ギェアアァァァア!」  優美な見た目にそぐわない雄叫びが会場に響き渡る。兄の雰囲気が一変し、全身から殺気が迸った。あらゆる痛みや恐怖を一瞬にして吹き飛ばし、純粋な戦意だけがその身に残った。  ――兄上……!  兄が狂戦士になったところは見たことがある。特別訓練で、一度だけ。あの時は単純に憧れたが、今日はそれ以上の感情が湧いてくる。狂おしいほどの憧れ、血が沸騰するほどの滾り、それに身を焦がすほどの疼き。鳥肌が立ちそうだ。 「ウオォォッ!」  ランゴバルトが再び兄に向かって突進した。目にも止まらない速さで長戟をふるい、確実に喉を突いて来る。  兄はその全てを太刀で防ぎ、一瞬の隙を突いて胴を横に薙ぎ払った。ランゴバルトの鎧が割れ、腹部から血しぶきが飛んだ。  だが狂戦士モードで痛みを感じないランドバルトは、その程度では怯まない。長戟を突き出すのと同時にガラ空きの足元を狙って蹴り上げた。  兄はとっさに距離をとったが、ランゴバルトの間合いから抜け出した瞬間、両肩から鮮血が噴き出した。 「おお……さすがだね……」 「ふん……穂先を防いだ程度で俺の攻撃が防げると思うな」  長戟をふるう度にその周りの空気も刃となり、相手を切り裂く。そんな芸当ができるなんて、さすがにランキング二位の実力は本物のようだ。  死合いにおいて――特にどちらも狂戦士モードに入ってしまった場合は、攻撃を防ぐことはあまり意味がないのかもしれない。痛みに怯まない限り身体の動きが鈍くなることもなく、そうであるならば、如何に相手を戦闘不能にさせるかが全てとなる。  戦闘不能とみなされるのは、四肢が吹き飛んでしまった場合や、首が刎ねられた場合である。痛みは感じなくても首を刎ねてしまえば相手は死ぬ。だからランゴバルトも、兄の喉を執拗に狙ってくるわけだ。  ――さあ、どうする……兄上?  ランゴバルトの首も分厚い鎧で覆われている。となれば四肢を切断するしかないのだが、あのランゴバルトがそこまでの隙を見せるとも思えない。  だから余計に、兄がどうやって相手を攻めてくれるのか、楽しみで仕方がない。

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