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第153話
会場が割れんばかりの喝采に包まれた。誰もがこの死闘を称え、興奮状態のまま地団駄を踏んでいる。
『フレイン、ランゴバルト両名戦闘不能。死体を回収し、蘇生を行ってください』
天からヴァルキリーの声が降ってくる。死体回収係が数人現れ、担架やシートを持ち出して兄とランゴバルトの死体を回収していた。腕が飛んだり脚が千切れたりしているので、回収班もなかなか大変そうだった。
――兄上……。
痛ましい姿ではある。だがそれ以上に誇らしかった。鳥肌が立つほど素晴らしい死合いを見せてくれた兄に、心から感謝したくなった。
そして同時に羨ましかった。自分とほぼ互角の相手と戦い、自分の命を燃やし尽くし、思い残すことはないと言わんばかりに死んでいった兄が。
――俺もあんな風に戦いたい……。
自分の実力を全て出し切り、死力を尽くして戦えたなら、勝ち負けなどどうでもいい。冷静に見れば決して美しい死に方ではないだろうが、アクセルにとっては、今日の死合いには自分の理想が全て詰め込まれていたように思えた。
「終わってしまいましたか。久しぶりによい死合いを見せていただきました」
「ああ。やっぱり達人同士の死合いは血が滾るな」
ユーベルとジークが席を立つ。ミューも飴玉を咥えながら席を立ったが、アクセルは会場を凝視したまましばらく動けなかった。
「アクセル、帰らないのー?」
「あ、ああ……」
ハッとして席を立ち、急いで会場を出た。次の死合いの準備等もあるため、死合いが終わったらなるべく速やかに会場から出なければならないのだ。
ミューやジークたちを別れたアクセルは、念のためにオーディンの館に行ってみた。兄の蘇生にどのくらいの時間がかかるか知っておきたかったのだ。
早速館の日直にその旨を尋ねてみたら、
「フレイン様は肉体の損傷が激しかったので、完全に復活されるまで十八時間以上はかかると思われます」
「そうか……。じゃあ、棺から出られるのは明日の早朝ってところかな」
「多分そのくらいじゃないかと」
「わかった。ありがとう」
手持ち無沙汰になり、アクセルは館を後にした。
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