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第154話

 今日はもうこれといった用事はない。友人と一緒にいる気分でもないし、軽く鍛錬でもして家に帰ろう。明日は早起きして兄を迎えに行かないといけないし。  アクセルは鍛錬場に向かい、素振りや腕立て伏せ、走り込み等を行った。素振りをしている時、兄の死合いの残像が脳裏にちらついてしまい、一人で勝手にぞくぞくしてしまった。  ――俺もまだまだだな……。  鍛錬で流した汗を拭いつつ、自分自身に呆れる。刺激的な死合いだったとはいえ、いつまでもそれに引きずられていては戦士失格だ。腕っぷしが強くなり、ランクが上がっても、メンタルにおいてはまだまだ修行が足りないらしい。まったく、恥ずかしいことだ。 「アクセルさん!」  鍛錬に使った道具を片付けていると、男が一人声をかけてきた。誰かと思って振り向いたら、かなり意外な人物だった。 「……ロシェ? どうしたんだ?」 「鍛錬お疲れ様です! タオルと水を持ってきました! よかったらどうぞ」 「あ、ありがとう……」  困惑しながらも、アクセルは差し出されたタオルと水を受け取った。この間自分を罠に嵌めた男が、今更何の用なのだろう。わざわざタオルと水を差し出してご機嫌をとろうだなんて、余計に怪しい。 「それで……俺に何か用か?」 「いえ、用というほどのことでは。たまたま見かけたので、ちょっとご挨拶をと」 「はあ。たまたま見かけたのに、都合よくタオルや水を持ってるものなんだな」 「はい、僕は用意がいい方なので」 「……。まあいいか。じゃあ、俺はこれで……」  話を終え、ロシェと距離をとる。  何を企んでいるかは知らないが、気を許すのは危険だ。変なところで足下をすくわれてはかなわない。この水も何が入っているかわからないし、口をつけない方がいいだろう。 「あ、ちょっとアクセルさん! 待ってくださいよー!」  アクセルの心情を余所に、ロシェは懲りずについてくる。

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