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第166話*

「兄上、これは……」 「なに?」 「傷が残ってる……。ほんの少しだが……」  そう言って、兄の喉元に指先を這わす。すると兄はくすぐったそうに笑った。 「そこ? それじゃあ、私からは鏡がないと見えないね」 「でも、確かに傷があるんだ……」 「あったっていいじゃない。そんなに目立つものでもないだろう? お前だって今まで気付かなかったんだし」 「だけど……」  今までは気付かなかったけれど、一度気付いてしまうと気になって仕方がなかった。兄はもともと色白で肌も美しく、全体的に芸術品のような神々しさがあるのだ。そんな兄が傷物になってしまうのは悲しすぎる。  それに……。 「死合いで最期にやられたところだよな……? 棺に入ったのに治ってないなんて……」 「んー……予定より早く出てきちゃったからかな? 朝まで入ってれば痕も残らなかったかもね」 「……はあ? なんで治る前に出てきちゃったんだよ?」 「そんなの、早くお前と遊びたかったからに決まってるじゃない」 「……傷の治療より弟と遊ぶ方を優先するのか、あなたは」 「当たり前でしょ。お前より大事なものなんてないよ」  臆面もなく言い切る兄。  アクセルとしては全身が完治してから出てきて欲しかったのだが、そこまでハッキリ言われると怒るに怒れず、困ったように目を逸らした。  そんな弟を宥めるように、兄が頭を撫でながら頬に口付けてくる。 「ちょっと傷が残ったくらいで拗ねないの。また棺に入ればまとめて治るし。たいした問題じゃないでしょ」 「そういうことでは……うっ」  バチン、と強めに腰を叩きつけられ、思わずくぐもった呻き声が漏れた。中にたっぷり出された欲望が潤滑剤となり、蠕動がよりなめらかになる。そのおかげで、普段はなかなか味わえない奥深い快感を引きずり出される羽目になった。 「ふ、く……! あ、あ、ああ……っ!」  背筋がぞくぞくし、全身に鳥肌が立って、再び中心に熱が溜まり始める。無意識に兄の腰に脚を絡め、振り落とされないようにしがみつき、甘い嬌声を上げながら快感を享受した。  けれどアクセルには、ひとつだけごまかしたくない問題があった。

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