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第167話*

「あ、兄上……っ」 「なに? まだ私の傷が気になる?」 「気になるに、決まってるだろ……!」 「もう……お前は時々細かいことにこだわるね。こんな薄い傷、あってもなくても一緒じゃない」 「そ……じゃなくて……もっと違う意味で……」 「? じゃあどういう意味?」  腰の動きが少し弱まった。  アクセルは息を整えながら、兄の喉元に手を触れた。肌触り自体はなめらかだったが、ほんの少しだけ傷痕が浮き上がっていた。 「なんで……この痕を残したのが、俺じゃないんだ……」 「えっ……?」 「痕をつけるなら俺がつけたかった……。他人につけられた痕なら綺麗さっぱり消して欲しかった……。なんで俺じゃない人の傷が、未だに身体に残ってるんだ……!」 「アクセル……」 「兄上の身体に、俺以外の人が痕をつけるなんて……」  傷が残っていることが気になっているのではない。いや、正確には傷そのものも気になるが、それよりは、誰に傷をつけられたかの方がずっと重要だった。  例えそれが死合い中にできた名誉の傷であっても、自分以外の戦士がつけた傷を残しておくのは許しがたい。  子供じみた独占欲だとわかってはいるけれど、それでも……。 「ふふ、なんか嬉しいな。お前もヤキモチ焼いてくれることがあるのか」 「……俺は妬いてばかりだよ。兄上にとってはどれもこれも些細な問題だろうけど」 「そういうところも、お前らしくて私は好きだ」  軽く唇にキスを落とされ、アクセルは眉尻を下げた。  兄がにこりと微笑みながら、こんなことを言ってくる。 「じゃあ、今度棺に入る時はちゃんと完治してから出てくるよ。私が早く出てきちゃわないか、側で見張ってて」 「……ずっとか?」 「うん。……あ、でもお前が近くにいると余計に早く出たくなっちゃうかな」 「あのなぁ……兄上、本当にちゃんと反省してるのか?」 「してるって」 「あん……っ!」  ぐちゅ、と再び腰を動かされ、アクセルは眉間にシワを寄せた。

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