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第185話

「売ってるけど、ハチの巣までは売ってないじゃない? 一度食べたことあるんだけど、あれすごく美味しいんだよ。栄養価も高いらしくてね。確か、こむ……なんとかって名前だったかな」 「こむ……」  コムハニーのことだろうか。アクセルも話には聞いたことがある。採取した蜂の巣をそのまま切り取って、たっぷり染み込んだハチミツと一緒に食べるのだそうだ。アクセルはまだ食べたことがないが、兄の言う通りとても美味しいらしい。  兄がにこりと微笑んだ。 「焼きたてのトーストに塗るのも美味しそうだよね。お前が料理してくれたら、すごく嬉しいな」 「ああ、そういうことなら……」 「デートしてくれる?」 「もちろん。いくらでもお付き合いす……」  その時、玄関のドアがどんどん叩かれる音がした。あそこまで激しくドアを叩かれたことはなかったので、少しびっくりしてしまった。  何事かと思ってドアを開けたら、そこには意外な人物が立っていた。 「親分、おはようございます! 予告通り、伺いに参りました!」 「えっ? ロシェ……?」  更にびっくりした。何故彼が訪ねてきたかわからない。確かに昨日の別れ際に「明日また伺います」と言われたけれど、まさか朝っぱらから自宅に押しかけられるとは思わなかった。 「ええと……おはよう。何しに来たんだ?」 「親分の本日の予定を伺いに! 親分、今日は何する予定ですか? 鍛錬ですか? 見回りですか?」 「いや、今日はそういうのは特に……」 「あ、非番なんですね? じゃあどこかお出掛けでもします? どこへでもお供しますんで、教えてください」 「あ……いや、お供は特に……」  たった今、兄とハチミツを採りに山に行くと約束したばかりなのだ。せっかくのデートを第三者に邪魔されたくない。  アクセルは邪険にしないよう、なるべく丁寧に断ることにした。

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