186 / 2201
第186話
「ありがとう。でも今日は兄と山に行く予定なんだ。お供は必要ないから、今日のところは帰っていいぞ」
「えー、そうなんですか? フレイン様、今棺の中で蘇生中なんじゃないんですか?」
「いや、蘇生はもう終わってるよ。だから心配する必要は……」
「でも病み上がりでしょ? 治ったばかりの人を山に連れ出しちゃっていいんですかね?」
「えっ……?」
「あの山はなかなか険しい場所ですよ。絶好調な状態ならいいですけど、蘇生したての状態で歩き回るのはオススメしません。やっぱり今日は鍛錬をした方がいいんじゃないですかね?」
「それは……」
言われてみればその通りだ。兄は蘇ったばかりで、本調子なのかよくわからない。喉元に傷が残っているように、完全に蘇生したとは言えない状態だ。
兄から誘われたデートではあるが、今日は大事をとって休んでいた方がいいかもしれない……。
「何してるの?」
そこへ兄本人がやってきた。兄の表情はほとんど変わらなかったが、纏っている空気がピシッと張り詰めたのを感じた。
ロシェに至ってはあからさまに青い顔になり、怯えたように半歩後ろに下がる。
「フ、フレイン様……ここにいらっしゃったのですか……」
「……誰かと思えばきみか。朝から騒々しいね。うちの弟に何の用?」
「ち、ちょっとした朝のご挨拶に……。特に用はありませんので、これで失礼します!」
そう言うなり、ロシェは脱兎のごとく逃げて行ってしまった。アクセルは軽く溜息をつきながら、ドアを閉めた。
「兄上……トラブルでもないんだから、わざわざ出て来なくてもよかったんだぞ?」
「お前が玄関でずっと話し込んでるから、誰なのかと思っただけだよ。というかあの問題児、本当に何の用だったの?」
「本当にただの挨拶だよ……。というか、言うほど問題児でもないと思うけどな、ロシェは」
「おや、彼の肩を持つのかい? もう少しで狼に喰い殺されるところだったのに」
「それは……でも、狼が来たのは偶然だと思うんだが。崖に落ちたのだって、俺の不注意みたいなもんだし」
そう言ったら、兄は露骨に眉を顰めた。
ともだちにシェアしよう!