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第187話

「お前、お人好しも大概にしなさいよ? そんなこと言ってるから、他人の悪意に付け込まれるんだ。少しは警戒心を持った方がいい」 「でもロシェは、兄上の体調を気遣ってくれてたぞ? 蘇生したてであの山に行くのはオススメしないって……」 「そんな発言を真に受けてるの? お前の家に夜這いして、朝っぱらから挑みまくった体力があるんだから、どこに行ったって平気に決まってるじゃない」  ……それもそうか。大きな声では言えないが、上下合わせて四回もやらかしたのは事実である。 「ねえ、アクセル」  と、兄が顔を包み込んでくる。兄には珍しく真剣な表情をしていた。 「お願いだからあまり私を心配させないで。相手を片っ端から疑えとは言わないけど、もう少し『おかしいな』って思って欲しいんだ。そうじゃないとお前、いつか取り返しのつかない目に遭ってしまうよ」 「取り返しのつかない目って……」 「お前が思っているより、ヴァルハラは危険がいっぱいなんだ。凶暴な獣や危険な火山とかもそうだけど、戦士同士の姦計が一番厄介なんだよ。上位ランカーを蹴落とすためにあれこれ考える戦士だって大勢いる。上位になればなるほど、足をすくわれないようにしないといけないんだ」  兄は更に続けた。 「お前は誰にでも優しくて、素直ないい子だ。それはお前の長所でもあり、短所でもある。悪人にとっては、これほど騙しやすいカモはいないだろう。だからこそ、もっと気をつけて欲しいんだ。万が一お前がいなくなったら、私は……」 「兄上……」 「できることなら四六時中一緒にいてお前を守ってあげたいけど、生憎私の身体はひとつしかないし、危機を察知できるようなエスパー能力もない。だからお前がきちんと自衛するしかないんだ。危ない人とはつき合わない、怪しいところには行かない……とかね。わかった?」 「…………」 「……アクセル、聞いてる? お返事は?」 「はい……兄上」  頷きながら、涙が出そうになった。兄の気持ちが強烈すぎて、自分にはもったいないくらいだった。

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