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第192話

「はあ、それはすごいね。洋服をデザインしてるのは知ってたけど、本まで書いちゃうとは思わなかったよ」 「わたくしの教養があれば、これくらい朝飯前ですよ。毎日のファッションからヘアースタイル、美容のことまで丁寧に解説してあります。特に、ハチミツのフェイスパックはオススメですね」  ハチミツ、という単語を聞き、アクセルは試しに尋ねてみた。 「ユーベル様は、山にハチミツを採りに行ったことがあるんですか?」 「ええ、もちろんですとも。質のいいパックは質のいいハチミツ採集から始まります。あなた方も、ユーベル特製ハチミツパックをすればあっという間にお肌もツヤツヤのぷるぷるになりますよ」 「へえ、それはいいね。じゃあユーベル、その場所を教えてよ」  ここぞとばかりに兄が口をお願いする。だがユーベルは、人差し指を立てて「チッチッ」と左右に振ってみせた。 「教えてあげてもいいですが、あそこは素人には厳しい難所です。二人で行くのは危険すぎるので、わたくしも特別に同行して差し上げましょう」 「ありゃ、きみも来るのかい?」 「ええ。ヴァルハラのハチは小さいものでも手のひら以上のサイズがありますからね。大きければ身の丈を超えることもあります」 「み、身の丈を?」  あまりに驚いて、アクセルは思わず声が裏返りそうになった。  ――身の丈を超えるハチって……もうそれ、ハチじゃないだろ……。  本気で「辞めた方がいいんじゃないか」と考える。そんなハチに襲われたら、刀だけではどうにもならない。イノシシと違って不規則に飛び回るし、集団で襲ってくるし、多勢に無勢だ。無事に帰って来られる気がしないのだが。  ユーベルは更に言った。 「幸い、彼らはミツバチなので針の毒性はさほど強くありませんが、大きさは身体に比例しますからねぇ。場所が悪ければ、一回刺されただけでも即死する可能性もありますので。しっかりしたハチ対策をしていかなければ、生きて帰って来られませんよ」 「へえ、そうなのか。じゃ、せっかくだからきみにレクチャーしてもらおうかな」 「あ、兄上……」  アクセルは遠慮がちに兄の脇をつつく。

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