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第194話
そう念を押されたが、正直あまり自信はなかった。
特別ハチが苦手というわけではないが、それでも針を持った生き物が自分の周りをぶんぶん飛び回っていたら、警戒するのが当たり前だろう。余程図太い人か、慣れている人でないと、落ち着いているのは難しい。
「怖い?」
兄が手を握ってくる。自分では震えていないつもりだったが、兄に触れられた途端ものすごくホッとした。思った以上にハチミツ採集に対して後ろ向きな気分になっているようだ。
「お前、ハチ苦手だったっけ?」
「いや、そういうわけではないが……」
「そんなに怖いならお留守番してる? 私がお前の分までハチミツ採ってくるよ。ユーベルと」
「えっ……?」
言われて、アクセルははたとユーベルを見上げた。
二人きりのデートのはずだったのに、いつの間にかユーベルが同行することになり、挙げ句の果てに自分が留守番するフラグまで立ってしまう始末。
ユーベルが同行するところまではいいとしても、兄と別行動になってしまうのはさすがに悲しすぎる。
アクセルはやんわりと手を振り解き、はっきりと言った。
「いや、平気だ。俺も行く」
「そう? じゃあ私の側を離れないようにね。何かあったらすぐに言うんだよ?」
「兄上……俺は子供ではないぞ」
「あはは、ごめんね。お前があまりに可愛いからつい心配になっちゃって」
「ちょっ、兄上……!」
恥ずかしくなり、軽く兄を小突く。
二人きりの時に言われるならいいが、第三者が見ているところで堂々と可愛いだの何だのと言われると、気まずくてたまらない。
ユーベルがやや呆れながら言った。
「ラブラブなのは結構ですが、のんびりしていると日が暮れてしまいますよ。武器を持ったら早速参りますか」
「うんうん、じゃあ行こうか」
兄が席から立ち上がったので、アクセルもそれに続いた。
武器はいつでも身につけているので、図書館を出てすぐに山に入ることになった。
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