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第195話

「ハチの巣まではそう遠くないんですけども」  と、ユーベルは道なき道をスタスタ歩いていく。周囲を見回しても全部同じ木が生えているようにしか見えず、一人で入ったら迷ってしまいそうだった。ある意味、道案内がいてよかったと思う。 「ただ、ハチの巣に近付くと見回りのハチが出てきます。その時点で警戒されたらアウトですね。殺気を出さないよう、なるべくゆっくりと、ハチの巣に近付くことが大切です」  ユーベルがくどくどと講釈を垂れてくる。一応口では「はい」と返事してみせたが、実践できるかどうかは謎だ。  ――泳いだことのない人に、陸上で泳ぎ方の講義をしてるようなものじゃないか?  正直、憂鬱な気分は抜けない。  というか、そもそも兄は何のためにハチミツを欲しがっているのだろう。コムハニーを食べたいとか言っていたが、本当にそれだけのためにこんな危険を犯してハチミツ採集をしに行くものだろうか……? 「あの……兄上、今日は何でハチミツが欲しくなったんだ?」  こっそり兄に尋ねてみたら、彼はしれっとこんなことを言い出した。 「んー……何となく? 獣を狩るのは何度もやったから、たまには甘い物を採りに行きたいな~と思っただけ」 「ええー……? じゃあハチミツじゃなくて果物でもよかったんじゃないか?」 「そうかもね。でもせっかくユーベルがいるんだし、初ハチミツ採集もいいじゃない?」  ……そんな「何となく」の理由に命を懸けていいのか。  ――というか、俺は一度しか獣を狩ったことがないんだが。  まともな狩りは、ランゴバルトに引率(?)されたイノシシ狩りだけである。  どうせなら兄と協力してイノシシなりシカなりを狩ってみたかったが……なかなか思い通りにはいかないものだ。 「……ここから先はハチ達のテリトリーです。騒がないように注意してくださいね」  急にユーベルが声を潜めてきた。言われてみれば、少し空気が張り詰めてきたような気がする。

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