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第196話
反射的に小太刀の柄に手をかけてしまい、アクセルは慌てて手を離した。
空気が張り詰めたり、殺気を感じたりすると、戦士の本能が出てしまうのか、つい武器を握ってしまいそうになる。こんな調子でハチが横から飛び出して来たら、条件反射で斬ってしまいそうだ。
ハチのような集団で生活している虫は、例えそれが不可抗力でも、一匹攻撃された途端こちらを敵だとみなして何十匹もの大軍で襲い掛かってくる。だから一匹たりとも傷つけてはならない。
その理屈はわかるのだが……。
――兄上やユーベル様は、よく平気でいられるな……。
先程から二人は一度も武器に手をかけていない。この張り詰めた空気の中でも平常心を保てるらしく、歩くスピードもあまり変わっていなかった。戦う本能を理性で抑えているというよりは、「まだ危険なことは何も起こっていないんだから、そんなに身構える必要はない」と余裕を持っているみたいだった。
――これがランキング上位者の自信なのかな……。
武器を構えての戦闘力は、だんだん兄に近づいてきたような気がする。けれど精神的な強さという意味では、まるで勝てる気がしなかった。兄はいつでもどこでも泰然自若としていそうだけど、自分はそうではない。不意な出来事があるとすぐに驚いてしまうし、余裕ぶっていても内心めちゃくちゃ動揺していることがよくある。
どうしたら精神を鍛えられるのか、兄に聞いてみたいものだ。
「……!」
不意に、視界の隅に一匹のハチが映った。そいつは手のひらサイズの小さいものだったが、一気に距離を詰めてこちらにやってきた。
「うわっ……!」
顔面に止まられそうになり、防御反応が抑えられなかった。アクセルは小太刀を抜き放ち、そのハチに向かってそれを振り下ろした。
ハチは飛んでくる勢いのまま縦に真っ二つに割れ、アクセルの胸に当たってぽとりと落ちた。その死骸を見た瞬間、アクセルはハッと我に返った。
「ありゃ……やっちゃったね」
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