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第197話
兄が苦笑しながら言う。ふと耳をすませば遠くからぶんぶんハチの羽音が聞こえてきて、次第にそれが大きくなっていくようだった。どうやらハチを怒らせてしまったようだ。
「これはいけませんね。今日のハチミツ採集は失敗です。追いつかれる前に早々に退散しましょう」
ユーベルがさっさと元来た道を引き返していく。
「ほら、早く帰るよ」
動揺しているアクセルの腕を引っ張り、兄もユーベルの後を追った。
自分が犯した盛大なミスを自覚し、アクセルは猛烈な罪悪感に襲われた。
「……すまない、兄上。つい手が出てしまって……」
「まあ、しょうがないよ。あれは戦士としては当たり前の反応だ。いきなり飛び出てきたらびっくりするし」
「でも……俺が未熟だったばかりに、お二人に迷惑をかけて……」
「そんな大袈裟に考えなくていいよ。ハチミツを採るチャンスはこれから先いくらでもあるんだし。それに、下の者の失敗には寛容でいなくちゃ。ねぇ、ユーベル?」
「ええ、そうですね。位高ければ徳高くあるべし。上に立つ者の基本です。……まあ、初心者ならばよくあることですよ。徐々に慣れていけばいいのではないですか?」
「…………」
気にするな――と、穏やかな口調で慰めてくれているのはわかる。わかるが、兄とユーベルの言葉を聞いているとズキズキ胸が痛んだ。
兄はハッキリと「下の者の失敗」と言った。ユーベルも婉曲的に「あなたは初心者だ」と言った。
確かにランキングでは彼らの方が圧倒的に上だけど、単純な戦闘力だったらどちらともいい勝負ができると思う。未熟なところは多々あるが、アクセルだって毎日鍛錬して強くなったのだ。そんなあからさまに見下さなくてもいいではないか……。
――何なんだよ……。
いつでもどこでも余裕ぶって。見世物のように下の者を眺めて。お前たちは何様のつもりなんだ。単に数字上のポイントが高いだけで、実力は俺とさほど変わらないじゃないか……。
「……っ?」
おかしなことを考えていることに気付き、アクセルはハッと息を呑んだ。
――あれ……? 何で俺、こんなこと考えて……?
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