199 / 2201

第199話(アクセル~フレイン視点)

 ジロリと兄・フレインを横目で睨む。  いつもいつも俺を振り回しやがって。自由気ままに振る舞って、そのくせ悪びれもなく笑ってごまかそうとする。  そもそも、俺が劣等感の塊になったのは兄のせいじゃないか。俺が生まれ落ちた瞬間から目の上のたんこぶとして存在し、歳の離れた弟を見下して、いつも俺の心を掻き乱す。  この兄さえいなければ、俺はこんな惨めな思いをしなくて済んだのに―― 「っ……!?」  そんなことを考えている自分に気付き、ショックのあまり胸が潰れそうになった。  ――どうかしてるぞ、俺……!  兄・フレインのことは昔から大好きだ。人間だった頃はずっと片想いだったから、ようやくヴァルハラで結ばれて本当に嬉しかったのだ。今だってもったいないくらい愛されて、幸せでたまらないのに。  それなのに、何故こんなことを……。  ――こんなこと思ってない……考えちゃいけない……。  兄のことを「疎ましい」だの「目障り」だの、ましてや「いなくなればいい」だなんて、そんなこと……。 「……アクセル?」  兄が心配そうに顔を覗き込んできた。 「本当に大丈夫? さっきから様子が……」  兄の顔を見た瞬間、何かがプチンと弾けた。  それっきり、アクセルの理性はどす黒い本能に掻き消された。 ***  もう一度弟の様子を窺おうとしたら、急に弟の態度が豹変した。 「うざいんだよ!」 「っ……!」  驚く間もなく胸倉を掴まれ、地面に引き倒されて馬乗りにされる。そのまま首に手をかけられ、容赦なくギリギリ締め上げられた。 「あんたがいるから……あんたのせいで、俺は……」 「か……はっ……」 「あんたなんていなくなればいいんだ!」  弟の指が気管に食い込み、息ができなくなる。首を圧迫されたことで脳が膨脹するような感覚に陥り、酸素の足りなくなった身体が空気を求めて痙攣し始める。  命の危機を覚え、フレインは指先で弟の喉仏を突いた。弟が仰け反り、両手の力が一瞬緩んだ。  その隙を見逃さず、半身を起こして太刀を掴むと、柄の部分で弟の腹部を殴った。

ともだちにシェアしよう!