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第199話(アクセル~フレイン視点)
ジロリと兄・フレインを横目で睨む。
いつもいつも俺を振り回しやがって。自由気ままに振る舞って、そのくせ悪びれもなく笑ってごまかそうとする。
そもそも、俺が劣等感の塊になったのは兄のせいじゃないか。俺が生まれ落ちた瞬間から目の上のたんこぶとして存在し、歳の離れた弟を見下して、いつも俺の心を掻き乱す。
この兄さえいなければ、俺はこんな惨めな思いをしなくて済んだのに――
「っ……!?」
そんなことを考えている自分に気付き、ショックのあまり胸が潰れそうになった。
――どうかしてるぞ、俺……!
兄・フレインのことは昔から大好きだ。人間だった頃はずっと片想いだったから、ようやくヴァルハラで結ばれて本当に嬉しかったのだ。今だってもったいないくらい愛されて、幸せでたまらないのに。
それなのに、何故こんなことを……。
――こんなこと思ってない……考えちゃいけない……。
兄のことを「疎ましい」だの「目障り」だの、ましてや「いなくなればいい」だなんて、そんなこと……。
「……アクセル?」
兄が心配そうに顔を覗き込んできた。
「本当に大丈夫? さっきから様子が……」
兄の顔を見た瞬間、何かがプチンと弾けた。
それっきり、アクセルの理性はどす黒い本能に掻き消された。
***
もう一度弟の様子を窺おうとしたら、急に弟の態度が豹変した。
「うざいんだよ!」
「っ……!」
驚く間もなく胸倉を掴まれ、地面に引き倒されて馬乗りにされる。そのまま首に手をかけられ、容赦なくギリギリ締め上げられた。
「あんたがいるから……あんたのせいで、俺は……」
「か……はっ……」
「あんたなんていなくなればいいんだ!」
弟の指が気管に食い込み、息ができなくなる。首を圧迫されたことで脳が膨脹するような感覚に陥り、酸素の足りなくなった身体が空気を求めて痙攣し始める。
命の危機を覚え、フレインは指先で弟の喉仏を突いた。弟が仰け反り、両手の力が一瞬緩んだ。
その隙を見逃さず、半身を起こして太刀を掴むと、柄の部分で弟の腹部を殴った。
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