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第200話(フレイン視点)

「ぐっ……」  弟はフレインから退き、腹を押さえてニ、三度咳き込んだ。鳩尾に入れば一発で気絶させられたのだが、そう易々と弱点を突かせてはくれないらしい。強くなったものだな、とやけに冷静に思う。  ――それにしてもひどい毒だね、これ……。  あのアクセルが「あんたなんていなくなればいい」などと暴言を吐くとは。例え本心でなかったとしても、さすがにショックだ。ヴァルハラのハチが、こんな恐ろしい毒を持っていたなんて……。 「……殺してやる」  また弟が物騒な言葉を呟いた。そして愛用の二刀小太刀を引き抜いた。冗談でも何でもなく、全身から殺気が漲っていた。  ――あんなに「好き」って言ってたのに……。  あの言葉が嘘だったとは思わない。アクセルは心から自分を慕ってくれていた。特に抱き合っている時は本当に幸せそうだった。快感に溺れながら何度も「好き」、「愛してる」と言ってくれたのは記憶に新しい。  でもその反面、心のどこかでは常に「殺したい」と思ってたのかな……とか、生前からずっと「うざい」と思ってたのかな……とか。一体どこが気に入らなかったんだろう……と、悩んでしまいそうになる。 「たあぁぁっ!」  アクセルがこちらに斬りかかってきた。フレインは身体を捻って避けた。が、動きを読んだように横に小太刀を薙ぎ払われ、危うく胸部を斬られそうになった。  ――痛いなぁ……。  斬られていないのに、胸が痛くてたまらない。アクセルの殺気が腸を抉ってくるようだ。これが死合いだったらさぞ楽しい殺し合いになっただろうに、今はただ悲しみだけが襲ってくる。  そんなに殺したいなら殺していいよ……と言いたいところだが、さすがに今死ぬのは遠慮したい。今朝棺から出てきたばかりなのだ。二日連続で棺の中で眠るのはちょっと嫌だ。  フレインは太刀を抜いてアクセルの刃を受け止めた。受け止めた瞬間、剥き出しの憎しみが伝わってきて、それでまた悲しくなった。

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