202 / 2201
第202話※(フレイン視点)
自分で言うのも何だが、ずっと可愛がっていた弟にこんな形で刃を向けられ、フレイン自身も結構傷ついているのだ。そんな精神状態で泣いて縋ってくる弟を見たら、自分も何を言い出すかわかったものじゃない。
売り言葉に買い言葉の、大喧嘩になることだけは避けたかった。肉体的に傷つけ合うだけなら棺に入れればリセットできるが、言葉によって傷ついた心はなかなか元に戻らないから……。
アクセルの小太刀を受け流しつつ、無言で横に薙ぎ払う。小太刀よりリーチの長い太刀は易々とアクセルの脇腹を抉り、バランスを崩したところで足元を斬りつけた。
左脚が吹っ飛び、転倒しそうになった左胸に太刀を突き立てる。
「ぐは……ッ」
弟の唇から鮮血が迸る。衝撃に耐えられず、弟は仰向けにのけ反った。仰向けに転倒したところを今度はこちらが馬乗りになり、太刀の柄を両手で握って振りかぶった。
だが、喉元に刃を突き立てようとした時、一瞬だけ瞳の色が戻った。何故こんな風になっているのかわからないようだった。
「あにう……」
言葉を掻き消すように、フレインは弟の首を一突きした。それでアクセルは絶命した。強力な毒に侵されていた身体も、一度死んで棺に入れば全てなかったことになる……。
――元通りになるはずさ、身体はね……。
血まみれの太刀を仕舞い、のろのろと弟の亡骸を背負った。弟の血の匂いを嗅いでいたら、いつの間にかボロボロ涙がこぼれていた。
弟を棺に入れ終わってからは何もする気が起きず、フレインは自宅に戻ることもなく夜までふらふら飲み歩いた。
ヴァルハラ名物「ヤギの蜜酒」を浴びるほど飲んだがいくら飲んでも酔えず、身体は怠いまま、ひたすら街を彷徨った。
「おいフレイン、大丈夫か?」
ぐったりとベンチに座り込んでいたら、ジークに声をかけられた。彼はこちらの様子を窺い、呆れたような目で腰に手を当てた。
ともだちにシェアしよう!