211 / 2001

第211話

「どうしたんだ? 何か用か?」 「どうしたって、昨日親分鍛錬場に来なかったじゃないですか。滅多にサボらない親分がどうしたんだろうって心配してたんですよ」 「ああ……昨日は兄上と山に行ってたから」 「ええー、ホントに行ったんですかぁ? ハチミツ採集なんてすごい危険なのに」 「ああ、思った以上に危険だった……」  ハチのテリトリーに入った瞬間、空気がピシッと張り詰めた。あの感覚は忘れられない。下手な死合いよりずっと緊張した。  それで身体が硬くなって失敗してしまったわけだが、あんなに難易度が高い仕事なら最初から遠慮しておけばよかったと思う。きっと自分には時期尚早だったのだ。ハチミツ採集は兄とユーベルに任せて、自分は自宅でハチミツの美味しい食べ方を考えていればよかった。 「それで親分、今日は何する予定なんですか? お供しますよ」 「えっ……? ああ、それはまだ決めてないんだ。だからお供は大丈夫だ」 「じゃ、昨日の分まで鍛錬しましょう。タオルと水も用意してありますし」 「え、もう用意してあるのか? 準備いいな……」 「僕は子分なので当然です! 親分のためなら、先回りしていろいろ準備しますよ」 「は、はあ……それはどうも。でも、わざわざそこまでしなくても鍛錬の道具くらい自分で用意するし……」 「まあそう遠慮せずに。特に予定がないなら鍛錬の様子を見せてくださいよ」  ぐいぐい腕を引っ張ってくるロシェ。やや強引で困惑したが、断る理由が見つからなかったので今日は鍛錬することに決めた。  ――確かに、ここしばらくサボり気味だったからな……。  兄と一緒にいるのが楽しくて少し鍛錬から遠ざかってしまっていたが、自分はまだランキング三十五位の中途半端な戦士だ。兄の高みに上り詰めるには全然足りない。メンタル面でも弱いところがあるし、もっと強くならなくては。  そう思って鍛錬場に向かおうとした時、 「アクセル」 「あっ……兄上」  兄・フレインがつかつかとこちらにやってきた。

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