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第213話
「……ここ見て」
と、兄が爪先で地面を示す。戸惑いながらそこに視線を落としたら、土の上に黒ずんだ染みが残っているのが見えた。一度気付いたら周囲にも結構な痕が残っていることがわかり、アクセルは眉を顰めた。
「血痕……?」
「そう。これ、お前の血なんだけどね」
「えっ……俺の……?」
「そう。なんでこれが地面に染み着いてるかわかる?」
「え……それは……山で怪我をした、とか……」
「……お前ね、少しは考えて物を言いなさいよ? 山に登ったくらいで、棺に入れられるレベルの大怪我をするわけがない。だいたいお前、怪我をした覚えはないんだろう?」
「……すまない……。あの、じゃあ……俺は……」
断片的な記憶を手掛かりに、一生懸命考える。
自分は棺に入れられていた。棺に入れられるのは死んだ者だけである。つまり自分は、下山した後ここで出血して死んだということだ。
しかし出血死したとしても、一体何が原因で? 山の麓にまで獣は下りて来ないし、兄は山で怪我をしたわけではないと言っている。
だとしたら、出血死した理由はひとつしか思いつかない。
アクセルは恐る恐る口を開いた。
「あの……まさか、兄上……?」
「そうだよ。お前が突然斬りかかってきたから、仕方なくね」
「斬り……えっ? 俺が? 兄上に?」
「そうだよ。『あんたさえいなければ』って私に襲い掛かってきた。それはもうすごい殺気だったよ」
「え……え?」
予想外の言葉に、さすがにポカンとなってしまう。
――俺が兄上に襲い掛かった? そんな馬鹿な……。
兄に抜刀した経験がないわけではない。ヴァルハラに来た初日に斬りかかったら、軽くいなされて腕一本持って行かれたのは苦い思い出である。でもそれは兄の冷たい態度に我慢できなくてやったことだし、全く意味のない行動ではなかった。
そもそもアクセルは、兄・フレインのことが大好きだ。いきなり斬りかかって殺そうとするなどあり得ない。ましてや「あんたさえいなければ」なんて言うはずが……。
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