213 / 2001

第213話

「……ここ見て」  と、兄が爪先で地面を示す。戸惑いながらそこに視線を落としたら、土の上に黒ずんだ染みが残っているのが見えた。一度気付いたら周囲にも結構な痕が残っていることがわかり、アクセルは眉を顰めた。 「血痕……?」 「そう。これ、お前の血なんだけどね」 「えっ……俺の……?」 「そう。なんでこれが地面に染み着いてるかわかる?」 「え……それは……山で怪我をした、とか……」 「……お前ね、少しは考えて物を言いなさいよ? 山に登ったくらいで、棺に入れられるレベルの大怪我をするわけがない。だいたいお前、怪我をした覚えはないんだろう?」 「……すまない……。あの、じゃあ……俺は……」  断片的な記憶を手掛かりに、一生懸命考える。  自分は棺に入れられていた。棺に入れられるのは死んだ者だけである。つまり自分は、下山した後ここで出血して死んだということだ。  しかし出血死したとしても、一体何が原因で? 山の麓にまで獣は下りて来ないし、兄は山で怪我をしたわけではないと言っている。  だとしたら、出血死した理由はひとつしか思いつかない。  アクセルは恐る恐る口を開いた。 「あの……まさか、兄上……?」 「そうだよ。お前が突然斬りかかってきたから、仕方なくね」 「斬り……えっ? 俺が? 兄上に?」 「そうだよ。『あんたさえいなければ』って私に襲い掛かってきた。それはもうすごい殺気だったよ」 「え……え?」  予想外の言葉に、さすがにポカンとなってしまう。  ――俺が兄上に襲い掛かった? そんな馬鹿な……。  兄に抜刀した経験がないわけではない。ヴァルハラに来た初日に斬りかかったら、軽くいなされて腕一本持って行かれたのは苦い思い出である。でもそれは兄の冷たい態度に我慢できなくてやったことだし、全く意味のない行動ではなかった。  そもそもアクセルは、兄・フレインのことが大好きだ。いきなり斬りかかって殺そうとするなどあり得ない。ましてや「あんたさえいなければ」なんて言うはずが……。

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