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第217話

「兄上……」  立ち去っていく兄に、血を絞るような思いで何とかこれだけ言う。 「……待ってるから。ずっと……」  はっきりした返事をせずに、今度こそ兄は去っていった。また反射的に追い縋りそうになったが、無理矢理理性で抑え込んだ。  ――兄上……。  脱力してしまい、ガクンとその場に両膝をつく。もう立ち上がる気力もなかった。ヴァルハラに来て初めて兄と喧嘩をしてしまった。もっとも、これが喧嘩と言えるのかは少々疑問だが。  ――もうわけがわからない……。  兄は何をあんなに怒っていたのだろう。可愛がっていた弟に殺されかけたことだけが理由とは思えない。それくらいだったらちゃんと謝れば許してくれたと思う……多分。  わざわざ自分を突き放して、しばらく顔を合わせず、会話もせず、距離をとろうとしているのは何故なのか。冷静になりたいなどと言っていたけれど、我を忘れるほど頭が沸騰していたのだろうか。そんな風には見えなかったが……。 「ぴー」  ふと、茂みから小さな鳴き声が聞こえてきてアクセルは力なくそちらに目をやった。  木の葉がガサガサ揺れ、次いで白いうさぎがひょっこり顔を出す。そしてトコトコこちらにやってきて、膝の上に乗ってきた。 「ぴーぴー」 「ああ……きみ、ピピか……。随分大きくなったな……」 「ぴー」  アクセルは小さく微笑みながら、ピピを撫でた。別れた時は手のひらにすっぽり収まるサイズだったのに、今はモルモットくらいの大きさになっている。最終的に巨大なカンガルーくらいになるという話だったので、身体の成長は早いみたいだ。 「……聞いてくれよ、ピピ。今日兄上と大喧嘩してしまってさ……」 「ぴ?」 「兄上、すごく怒ってて、俺とはしばらく顔を合わせたくないんだって……。いや、ほとんど俺が悪いんだけど……あんなに怒られたの、初めてでさ……。俺、これからどうしたらいいんだろう……」 「ぴー……」 「……ははは、何言ってるんだろうな。こんなこと、きみに話してもしょうがないのに……」 「…………」  じっとこちらを見上げているピピ。また鳴いて慰めてくれるのかなと思っていたら、ピピは思いもかけない声を出した。

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