220 / 2001

第220話

 そう考えていたら、ピピがタタタ……とこちらに走り寄ってきて、テーブルを駆け上がり、手をガリガリ齧ってきた。 「ぴーぴー!」 「いてて……! ちょっ、ピピ、そんなに齧ったら痛いって」 「ぴー!」 「わかった! わかったから離してくれ。な?」  首根っこを掴んで、やんわりと引き剥がす。血は出なかったものの、手に思いっきり歯形がついてしまった。 「もう……どうしたんだ? ご飯が足りないのか?」 「ぴー」 「違う? じゃあ何だよ? 何か気に入らないことでもあった?」 「…………」  ピピがじっとこちらを見つめてくる。今度は何をするのかと思ったら、ピピは唐突にこんなことを言い出した。 「アクセル、すき」 「えっ……?」 「アクセル、すき」 「ピピ……」  本当に唐突な言葉だ。たった二文字のシンプルな言葉だが、ピピはピピなりにアクセルを慰めようとしているらしい。ぼくはアクセルのこと好きだよ、他の人が何と思おうとぼくはアクセルの味方だよ、だからそんなに落ち込まないで。  ――うさぎに慰められる日が来るとはなぁ……。  生前、犬や猫を飼っていた人に何度かペット自慢をされたことがあるが、確かにこれは癒される。落ち込んでいる時も黙って話を聞いてくれるし、ご主人様に一〇〇パーセントの好意を返してくれるのだ。人間相手ではそこまで単純にはいかない。こういうのをアニマルセラピーとか言うんだったか……?  というか、ピピはまだペットですらないけど。  ――そうだな、ずっと落ち込んでても仕方がないよな……。  アクセルは優しくピピを撫でた。  大丈夫、兄ならいつかきっと許してくれる。今更愛想を尽かすくらいなら、もっと早い段階で不仲になっていたはずだ。自分で言うのも何だが、今まで結構な迷惑をかけてきたのだから。  兄はいつか必ず会いに来てくれる。そう信じて待っていよう。 「……ありがとう、ピピ。きみがいてくれてよかった」 「アクセル、すき」 「わかったよ。俺もピピが好きだ」 「ぴー」  ピピが嬉しそうに耳をパタパタさせた。

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