222 / 2001

第222話

 ――そんなこと、あいつに話したっけ……?  ロシェには「山に行く」としか言っていないと思う。アクセルの記憶違いでなければ、「ハチミツを~」云々とは言わなかったはずだ……多分。  それなのに、何故彼はハチミツ採集に行ったと知っていたのだろう。普通「山に行く」と言ったら、イノシシやシカを狩りに行くと思うのではないか? ユーベルと仲がいいとも思えないし、一体どこからその情報を入手したのだろう……。  ――急に俺を「親分」扱いして近づいてきたのも謎だしな……。  あまり人のことを疑いたくないが、彼の言動が釈然としない以上、油断するのは禁物かもしれない。少し気をつけなければ。  薄く伸ばした皮に肉のあんを包み、丸く成形して蒸し器の中に並べ入れる。皮を薄くしすぎて破けそうになったので、今度はもう少し厚めに皮を作ろうと思った。  様子を見ながら肉まんを蒸し、立ち上る蒸気をボーッと眺める。  一人で家にいるとこんなに暇になるんだな……と、改めて感じた。兄に追いつくまでは必死に鍛錬しまくり、家に帰ってきたら食事して寝るだけの日々。料理や裁縫は一通りできるけれど、趣味と呼べるようなものが何もないことに今気付いた。  ――確かに、死合いや当番がなかったら一日中暇だもんな……。  道理で皆、趣味や特技を持っているはずだ。  ユーベルなんか多趣味の典型で、自分で美容やファッションを研究したり、本を書いたり、ユーベル歌劇団とかいう謎の集団まで結成したりしている。ケイジも朝市に自分の店を出しているし、ミューも飴玉片手にいつも散歩している(ミューのは趣味と言えるかわからないが)。  自分も、何か趣味っぽいものを見つけた方がいいかもしれない。しかし自分が得意なのは刃物の扱いくらいで、料理や裁縫もその延長みたいなものだし……。 「ぴー」  ピピが足下で小さく鳴く。先程エサをやったばかりなので腹が減っているわけではなさそうだが……かまって欲しいのだろうか。

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