226 / 2001

第226話

「ごめんな、いっぱい慰めてくれたのに。また山に会いに行くから許してくれ」 「ぴー……」  宥めるように頭を撫でていたら、ピピはしょぼんと耳を垂らし、ベッド脇の寝床に丸くなった。ちょっと苦笑してアクセルも就寝用のジャージに着替え、ベッドに入った。  ――せめて、夢の中では兄上に会えるといいな……。  そう思いながら、アクセルは目を閉じた。  そのまま眠りに突入したのだが、かなり妙な夢を見た。兄も登場してくれたものの、自分が望んでいたシチュエーションではなかった。  森の中に、巨大なイノシシが倒れている。かつてランゴバルトが誘き出したイノシシ神より、もっと大きなものだった。 「……!」  そんな中、倒れたイノシシの腹を兄が必死に切り開いていた。見たことがないほど慌てていて、綺麗な金髪も乱れていた。  ――兄上……?  兄は何をあんなに取り乱しているのだ? 俺は何を見ているのだ? 森で一体何が起こったのだろう……?  兄上、と呼びかけようとしたのに何故か声が出なかった。近づいて触れようとしたのに、触ることもできなかった。というか、兄には自分の姿が見えていないようだった。  夢だからそういう変なことも起こり得るのかもしれないが……。  兄が身の丈ほどもありそうなイノシシの胃袋を引きずり出し、それを太刀で薄く切り裂く。中からはイノシシが食べたと思しき草や肉(を消化したもの)、それと人の脚部のようなものが出てきた。  よく見れば脚だけでなく腕、溶け残りの頭部まであった。正直、あまり積極的に見たいものではなかった。 「……ああ……」  がくりと兄が膝を折る。四つん這いの格好でうずくまり、細かく背中を震わせている。どうやら泣いているみたいだ。  ――兄上……。  夢の中とはいえ、兄の涙を見たのは久しぶりだった。兄もこんな風に泣くのかと、少なからず衝撃を覚えた。  慰められるものなら慰めてやりたい。声も出せず、触れることもできないのがもどかしかった。兄に会えたのは嬉しいが、よりにもよって何故こんな夢を見なければならないのかと、自分の頭を少し恨んだ。

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