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第227話

「アクセル……」  兄の呟きを聞いて、「えっ?」と兄を見返す。  イノシシに食われたのは俺なのか? いや、でも俺まだ生きてるし。そもそもこれ夢だから現実じゃないし。なんでこんな意味不明の夢を見ているのか、さっぱりわからない。  ――だけど……。  見ていて心苦しかったが、それと同じくらい嬉しかった。顔も見たくないくらい怒っていても、弟がいなくなったらこんな風に悲しんでくれるのだ。それだけ自分が愛されていることがわかって、なんだかホッとした。  まあ、これも全て夢なのだが……。 「あー、もうほとんど溶けちゃってますねー」  唐突にロシェが出てきた。兄とイノシシを眺めながら、どこか小馬鹿にするように鼻を鳴らす。兄は反論することもできず、その場にうずくまったままだ。  ――なんだ、この展開は……?  眉を寄せつつ、アクセルは行方を見守った。夢とはいえ、突然ロシェが現れたのは不可思議だった。  ロシェは口角を上げ、腰に手を当てて言った。 「ホントにすいません。アクセルさんに恨みはなかったんですよ。でもあんたのことはやっぱり許せないんで。親しい人を奪われた気持ち、どうしても味わわせてやりたかったんです」 「……!」  ということは、俺がイノシシに喰われたのはロシェが原因ってことか? 彼は兄に復讐するために俺に近付いたってことか? 兄はそこまで恨まれていたのか? ちょっと厳しいところもあるが、兄は基本的に優しい人だ。恨まれる理由がわからない……。  ロシェは投げやりな口調で更に言った。 「別に僕は、あんたに復讐できればその後はどうなってもかまわないんです。殺すなり火山に放り込むなり、好きにしてください。でも、僕を始末したところでアクセルさんは戻ってきませんけどね」 「…………」  兄は無言だった。怒りのエネルギーすら湧いてこないのか、ただじっと地面にうずくまっていた。  夢だとわかっていても、これ以上悲しんでいる兄は見たくなかった。できることなら早く目覚めたかった。

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