230 / 2001

第230話

「……これでよし」  あとは郵便当番に届けてもらおう。当番になっている人なら、何も聞かず機械的に宅配してくれるはず。中身を読まれる可能性は低いし、例え読まれたとしても何も知らない第三者には意味がわからないに違いない。 「さてと……そろそろ出掛けるか」 「ぴーぴー!」  アクセルが椅子から腰を上げたら、ピピはベッド脇の寝床に走っていってそこにドーンと居座り始めた。  どうしても帰りたくないようだが、アクセルとしては苦笑いするしかない。 「ほら、ピピ。ゴネてないで帰るぞ。こんな寝床でよければ持ってっていいから」 「ぴー!」 「いや、俺だってずっと飼っていたいけど、きみ、最終的にはカンガルーより大きくなっちゃうんだろ? そんなに大きくなっちゃったら、この家にいるには狭すぎるよ。ピピだって手足を伸ばせずにいるのは嫌だろ?」 「ぴー……」  再びしょぼーんと耳を垂らしてしまったピピを、アクセルは寝床ごと抱き上げた。そして優しく撫でながら言った。 「俺のランクがもっと上がって、もっと大きな家に住めるようになったら、広い庭付きの家を建てるよ。ピピが自由に飛び跳ねても大丈夫なくらい広い庭だ。そしたら一緒に住もう、な?」 「……ぴー」 「だから少しの間だけ我慢してくれ。俺、もっと鍛錬頑張るから。約束する」 「…………」  ピピがじっとこちらを見つめてきた。アクセルもピピを見下ろした。  垂れていた耳をぴんと伸ばし、一言こう鳴いてくる。 「アクセル、すき」 「ああ、俺も好きだよ」 「アクセル、すき」 「ありがとう、ピピ。きみがいてくれて本当によかった」  これはアクセルの本心だ。ピピがいてくれなかったら、昨日アクセルは兄に突き放されたまま、ずっと立ち直れずにいたと思う。ピピがいたから気が紛れたし、木彫りという趣味を見つけることもできたのだ。  そういう意味では、感謝してもしきれない。

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