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第231話
せめてお別れするまでは抱っこしておいてやろう……と思い、アクセルはピピを腕に抱えたまま戸締りをして家を出た。
朝市を抜け、街の外れを通り、山の麓に辿り着く。山に近付くにつれてピピが「ぴー」とこちらを見上げてきたが、あえて聞こえなかったフリをし続けた。
「ピピ、着いたぞ」
茂みのところで寝床ごとピピを下ろし、最後にもう一度頭を撫でてやる。
「もっと強くなったら迎えに行くから。それまでピピも元気でな。くれぐれも、オオカミに喰われたりするなよ?」
「ぴー……」
「それじゃあ」
潔く立ち上がり、くるりとピピに背を向ける。ピピは追いかけて来なかった。足元に纏わりつかれたらどうしようかと思っていたから、その点は少し助かった。
その代わり、ピピは別れ際にこう鳴いた。
「アクセル、だいすき」
「……!」
それを聞いたら、ちょっと泣きそうになった。ますます離れ難くなってしまったが、アクセルは心を鬼にしてあえて振り向かなかった。次に会う時はもっとランクが上がってからだ。
ピピと別れた後、アクセルは郵便当番を捕まえて「これを届けてくれ」とハート型の手紙を渡した。念のために、差出人は誰なのかは言わないようにと口止めしておいた。
一連の雑用を終えて時間を確認したら、死合い開始まであと一時間くらいになっていた。
――今から会場入りしたら少し早いか……。
死合い前に軽く準備運動しておくか。アクセルは鍛錬場に向かい、三十分ほど走ったりストレッチしたりした。
「親分~! おはようございます~!」
そこへロシェがやってきた。やはり……というか何というか、ある意味で予想のできる展開だった。特に何も言っていないのに、アクセルが行くところにすぐ現れるのは、どこかから常に見張っているということだろうか。
そう言えば、ハチミツ採集に行ったことも知っていたし……。
「おはよう。今日もご苦労だな」
アクセルはさも何も知らない風を装って返事をした。変に疑っているところを見せると、向こうも警戒するだろうと思ったのだ。
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