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第232話

 ロシェは愛想笑いを浮かべながら口を開いた。 「親分、今日はこれから死合いですよね? 戦う前にアップしてるんですか?」 「ああ。準備運動くらいは必要だと思ってな」 「さすが親分! ランキング三十五位の戦士は違いますね~」 「……これくらい、みんなやってると思うけどな。ところで、今日は何の用だ?」 「あ、そうそう。親分、死合いが終わったら山に行きませんか?」 「……山に?」 「ええ。ハチミツ採集失敗しちゃったんでしょ? 僕、ハチミツ採集のコツ知ってるんで、教えてあげますよ」 「…………」  罠だな、と思った。ロシェと一緒に山に入ったら何が起こるかわからない。夢で見たように、本当にイノシシに喰われてしまう可能性もある。ハチミツ採集なんて言っているけど、どこまで本気か疑わしいし……。 「……まあ、考えておくよ。俺は死合いがあるから、後にしてくれ」 「あ、そうですね。じゃあ死合いが終わったらお迎えに上がります~!」  それだけ言って、ロシェはあっさりと立ち去って行った。  あの分じゃ、本当に死合いが終わったら迎えに来そうだ。リスクを回避したいのなら、この時点できっぱり断るべきだっただろう。  ――でも夢で見ただけじゃ、ハッキリしたことは言えないからな……。  何かを企んでいそうではある。ただそれは「いそう」というだけであって、本当に何か企んでいるかはわからないのだ。もしかしたら純粋に自分をハチミツ採集に誘いたかっただけかもしれない。そういう可能性もゼロではない。  だから少し様子を窺いたかった。ロシェの考えがわからないうちは、何も知らないフリをして様子を見ようと思った。  ――何もないといいんだけどな……。  夢は夢のままで終わって欲しい。兄に復讐するためではなく、純粋に人柄を慕って自分に近付いてきた……そうあって欲しい。 「…………」  時間を確認したら、死合い開始三十分前だった。  アクセルは鍛錬上を出て、すぐ近くの死合い会場に向かった。

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